立ち読み版 二人のラブミルク
「うーん。それはどうでしょうか……」
そのへんのことは、豊田も鳥居もよくわからないようで、日乃本の存在を気にしながら煙に巻く。
やや、内輪の話になってしまった。もしかすると、自分のような第三者と人事問題を話題にするのは適当でない……なんて、思ったのかもしれない。
鳥居は話題を変えるように、コーヒーに手を伸ばす。足を組み直し、ちょっと堅い仕草でコーヒーをすすった彼は、目を輝かせた。
「ほんとだ。美味しい……」
「でしょう?」
そんな鳥居に、日乃本と豊田は顔を見合わせて目を細めた。
これまで他人と時間を共有するのは、あんまり得意じゃなかった日乃本だが、楽しいし、ほっこりする。何か、重大なことが起きているわけでもないのに。自分にとって、これは事件といっていい。
「幸せな気持になれますよね……」
のどの奥まで潤すと、会話で暖まりだした日乃本の身体に、いっそうの熱さと甘さがしみ込んできた。
こんな和気藹々とした雰囲気は、三人が腰を上げるまで続いた。
作品名:立ち読み版 二人のラブミルク 作家名:松橋オリザ