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ふまさきはじめ
ふまさきはじめ
novelistID. 62683
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即興でなんか書いてみろ@自分への挑戦状1

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 大切なモノってなんだろう。

 大切なモノって、色々あると思う。
友人とか。恋人とか。あるいは家族とか。
どうしても人間関係ばかり想像される”大切なモノ”。
でもなんでかな。そこに自分がいない気がするのは。

「僕の大切なモノは僕自身です」

って、胸を張って言える人間を、僕は少しも想像出来ないんだ。


 じゃあ試しに、大切なモノって言い方を変えて、
大事って言葉に置き換えたらどうなるかな。
かけがえのないものって置き換えたら?
あるいは、あるいは……。

 僕が僕自身を誇るために必要な言葉がどこにも見つからない。
しっくりこない。
誰が僕を肯定してくれるんだろう。
誰が僕を見てくれているんだろう。

 僕がここまで生きてこれたのは、僕に関わった全ての人のおかげだと、教わった。
そう。そんな事知っている。でも、僕自身が感得したわけじゃない。
僕自身には全くその実感なく、そういうイメージを押し付けられた。
僕にとってかけがえのない過去、経験、それらの積み重ねで生まれた僕自身。
それらは「大事にせねばならない」という教えによって、今なお支えられているようで、
僕は無性に泣きたくなった。

「僕の大切なモノは僕から生まれたモノではありません」

呟くと、なんだか自暴自棄になれそうな気がした。
あくまで、気がしただけ。
でも、その感情が自分にとって、「大切なのかどうか」がわからない。
どうしようもない自殺衝動が「大切なのかどうか」わからない。

 鉄柵に足をかける。
乗り越える。
そうして、眼下に広がる、僕なんか知らない、けれども僕を生かす、
偉大な地球の、偉大な人類の、煌びやかな都市が見える。
僕を知らないけれど、僕がここまで生きるのに多少なりとも関与した、
あるいは全く関係は無かったけれど、僕と同じように育てられ、育ち、学び、
生きている人たちの煌めきが見える。
輝いている。

――眩し過ぎる。

呟くと、涙が零れ落ちた。
僕の代わりに投身自殺した水滴は、あっという間に見えなくなった。
きっと地面につく頃には跡形もなくなっている。
そしてそれは、誰にも気づかれない。
そう、誰もそんなこと気にかけない。

 誰かに与えられた恐怖で僕は、僕なんかには、自殺が出来ない事を確かめる。
『僕は臆病者だ』
『自殺する勇気も無い、ただの怖がりだ』
息苦しくなって、胸元のボタンをひとつ外す。
どうしてこんなに苦しい物をつけていたのだろうかと、不思議に思って、
二つ目のボタンを外す。けれど、これ以上呼吸は楽にならない。

外して楽になるのは一つ目だけで、二つ目以降はただの惰性。

三つ目を外しながらそんなことを思う。


「教えてくれ。この気持ちは大切なのか?抱きしめて生きていかなければならないのか?
 僕はこの先ずっと、こんな気持ちのまま生きていかなければならないのか?
 本当にそれが大切な事なのか?」

街明かりのせいでろくに見えもしない星空を仰ぎ見る。

「僕は一体、なんのために”生まれさせられた”?」

答える声は、どこにもなかった。





「あんた一体こんな夜遅くまでどこに行ってたの!?」
玄関に怒声が響く。――こんな夜遅くに大きな声を上げないでください。
「ごめんなさい」
慇懃な態度で声の主に応じる。
どうやら僕にとって”大切な”母親らしい。
そう教えられた。
少なくとも、世間一般ではそういうことになっている。
――吐きそうだ。
「自分がどういう立場かわかってるの?受験生なのよ、じゅ・け・ん・せ・い!」
「……はい」
受験もそうだ。世間一般で大切な事と割り振られている事で、
人生で一度、これを経験しているか否かで、何かが劇的に変わるのだと言う。
大切で大切で大切な、そして本人の覚悟とはなんの関係も無く時間経過によって齎される試練。
本人の価値観とは全く無関係に与えられる”大切な事”の集大成。
考え出すとこみ上げてくる不快感を腹中に押しとどめるため、思考を放棄する。
「まったく…。夜遊びも大概にしてもらいたいわ。
 言っとくけど、私立に通わせるお金なんて、うちにはないんだからね!」
「はい」
「それで?ごはんは?食べるの?あんたの分、机の上に置いてあるわよ」
「はい」
母親はため息を、……えらく不快なため息を残して去っていく。
どうやらもう寝るみたいだ。

 会話の内容を反復しながら、僕は自分が外で夕飯を済ませていたことに気が付く。
「おまえはまともに返事も出来ないのか」
妄想の父親の声が脳髄に響いてきて、僕は呟く。
「……ごめんなさい」
ごめんなさい。
ごめんなさい。
脳内で言葉を何度も繰り返しながら、丁寧に用意された料理をラップ掛けし、
無造作に冷蔵庫に放り込む。
――どうせ明日の朝に食べればいいだろう。
それだけ思って、僕は重たい身体を引きずりながら寝間に行く。
大切かどうかもわからない睡魔に襲われて、僕は目を閉じる。
大切かどうかもわからない着替えに関しては、今回は割愛させてもらった。

全てが、どうでもよかった。

そう、どうでもよかった。

自殺をしようと初めて思い立ったその日から、全てがどうでもよかった。
他人の語る大切なモノがピンとこなかった。
どう考えても大切であるはずの、大切なモノを語る主体である自分自身を、蔑ろにして騙られる”大切なモノ”。
「一生友達でいようね」
「僕たち親友だね!」
懐かしい言葉が聞こえた気がして、暗がりの部屋で身を起こす。
もう僕ではない誰かを差すその言葉に自嘲気味な笑みを浮かべながら、
枕元の時計に手を伸ばすと、時刻は午前3時を差していた。
大切ではなくなったと判断して、僕は布団から出る。
教えられた方法で布団を畳み、リビングへと降りていく。
明かりはつけない。
与えられた自分の席につく。
項垂れる。
俯く。
ああ、なんて息苦しいんだろうか。
ここはなんて息苦しいんだろう。
生きているのに、死にたいと絶え間なく湧き上がってくる、この場所はなんなのだろうか。
ボタンを外したくて、首元に手を伸ばす。
でも見つからなくて、弱々しく首をさすった。
このボタンはどうやら、存在しない。
それとも、普通では見つからない所に隠されているようだった。




 その日の学校はサボった。
どこかの偉い人が言ったんだ。
「学校なんて行かなくても”ひとかどの”人物にはなれる」って。
なら。必要がないなら、まぁいいか。と適当な気持ちでその行動に至った。
この物語に救いはあるのだろうか?
ヘッドフォンから垂れ流されるお気に入りの曲の歌詞に触発されて、自分に問いかける。

”そこに物語はあるのだろうか?”

そりゃあなんらかの物語はあるんだろう。でもそれは正しく物語をしていないように思う。
僕のは物語であっても、物語でない。
チープで売れない、だから採用されない。評価されない。
特別に絶賛される事も無ければ、駄作だとしてめちゃくちゃに罵倒されることもない。
単行本化して全国で3万部売れたりとか、増版される見込みも無い、駄作だ。
「『そこに物語はあるのだろうか?』?」馬鹿言え、売れない話は語り継がれない。
語り継がれなければもはや既に物語の体を成していない。