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藍城 舞美
藍城 舞美
novelistID. 58207
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再会箱 ~やっと会えたね~

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 それから10日ほどたった10月の初め、その少年は友人のジュリアンの家でゲームをするため、彼の家に向かっていた。そこに行く途中でオーバーパス(日本で言う陸橋)を通っていたとき、気分が高まるあまり速足になっていたので、下りの階段で足を滑らせて、そのまま転倒してしまった。ちょうどそのとき、彼の後ろには通行人が居たので、すぐにこの少年に駆け寄った。
「大丈夫かい?」
 そう尋ねられたが、ぶつけた箇所は激しく痛み、声を出すことができなかった。さらに悪いことには、目の前の景色がどんどんかすんでいった。やがて少年は完全に意識を失った。


 少年がようやく目を開くと、そこにはかなり狭めの白壁のトンネルに囲まれた、非常に長い階段があった。
(何だろう、この階段。上っていくと、どこに行くのかな)
 どういうわけか、少年は簡単に起き上がることができた。しかも階段で転倒したはずなのに、その体には一つのけがもなかった。少年は、まるで遊びに行くときのように軽快な足取りで階段を上り始めた。彼はたったっと階段を上り、かなりの距離を進んだが、引き返そうとしなかった。

 やがて、階段の先に白く輝くものが見えてきた。このトンネルの出口のようだ。すると、少年は階段を上りきる前に一度立ち止まり、トンネルの向こうの様子を見はじめた。トンネルからあまり遠くない所で、1人の美青年と、鮮やかなピンク色の髪の男性が、楽しそうにギターデュオをしていた。少年は、彼らの様子をじっと見ていた。そのとき、少年は青年と視線が合った。青年は演奏をやめ、ギターを下ろすと、少年のもとに行った。
「どうしたの、じっと立ってて」
 そう尋ねられた少年は、青年の顔をまじまじと見つめた。
(この人の顔、どこかで見たことある。そうだ、うちにある写真の男の人だ。じゃあ、この人は…)
 少年は、恐る恐る彼に尋ねた。
「お父さんですか…?」
 少年の言葉に、青年もはっとした。この子もよく見ると、小学生のときの自分に似ている気がする。
「君、名前を聞いてもいいかな」
「…スティーブン・シュルツです」
 美青年は、その体に電撃が走ったような感覚がした。そして、涙腺を派手に壊してスティーブンを強く、強く抱き締めた。
「そうだよ。俺は…君のお父さんだ…」
「やっと…やっと会えたね。お父さん」
 父親は、息子の頭を撫でて言った。
「おまえ、赤ちゃんだったのに、大きくなったな…」

 いつの間にか青年の近くに来ていたピンク色の髪の男性が、この上なく穏やかな笑みを浮かべて2人を見ていた。
(やっぱりいいもんだな、親子って)
 という思いを抱きながら。そんな彼に、スティーブンが目を向けた。
「ところで、このピンク色の髪のお兄さんは?」
「ああ、こちらは『Φ』(ファイ)っていうバンドでギターをやってた、ファビさんだ」
 ファビは、少年に軽く挨拶をした。少年は、初めて会う男性にほほ笑んで挨拶した。
「だから上手にギター弾けるんだ」
 ファビは、再びほほ笑みを見せた。

 その直後のことだった。スティーブに
「嫌よ、スティーブ、あなたまで…」
 と言う女性の涙声が聞こえてきた。
「お母さんの声だ…」
 彼の言葉を聞いて、青年はまじめな顔になって尋ねた。
「何て言ってた?」
「何か、泣いてるみたいな声で、『あなたまで』とか言ってた」
 青年の妻は11年前、「殺人に近い事故」で愛する夫を亡くした。そして、今度はわが子を「誰も巻き込まない事故」で亡くそうとしている。このままだと、妻はもう立ち直れないかもしれない…。それだけは何としても避けたかった。彼は息子の肩に手を置き、強い目力をもって彼を見つめ、こう言った。
「スティーブ、この先には行かないで、来た道を戻るんだ。おまえまで母さんを悲しませちゃいけない」
 ファビも、表情を少しきつくしてうなずいた。父が今まで見せたことのない怖い顔に、少年は言葉を失い、黙ってうなずくばかりだった。彼が去ろうとしたとき、父親が言った。
「最後に一つ、おまえに言っておこう」
 息子は、振り返って父の目を見た。 
「愛し、愛されて生きろよ」
 そう言って、父は、いま一度息子を抱き締めた。彼の横で、ファビも優しい顔で、しかし強くうなずいた。彼らに答えるように少年も一度、大きくうなずいた。
「うん、約束するね、お父さん」
 スティーブンは父の腕を離れ、こぼれそうなほどの純粋な笑顔を見せると、階段を下りていった。


 彼が目を覚ますと、病院の中だった。母のサラは、息子が目を開けたのを見て、その名前を呼び、その胸に顔をうずめ、うれしい泣き声を上げた。
「良かった、意識が戻ったのね…」
「お、お母さん…」
 彼は、聞こえるか聞こえないかの声で言った。