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藍城 舞美
藍城 舞美
novelistID. 58207
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再会箱 ~やっと会えたね~

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9月20日ごろ、トロントの某公園で、数人の男子小学生がバスケットボールをしていた。彼らはプロのような動きはできないが、なかなか本気のプレーをしていた。1人の少年がドリブルからのシュートを決めたあと、彼は言った。
「もうじき暗くなるから、今日はこれくらいにしよう」
 仲間の全員が賛成し、試合終了となった。少年たちはお互いにハイタッチを交わし、
「また明日な」
 などの挨拶とともに、それぞれの帰路に着いた。

 バスケをしていた少年の1人が、まっすぐ前を見ながら帰り道を歩いていた。別の公園の前を通っていたとき、どこからか現れた1羽の白いウサギが彼を追い越して走っていった。こんな町中をウサギが走るのは珍しい。どこかの家から逃げてきたのだろうか。それはともかくとして、少年はそのウサギに興味を持ったのか、それを追い掛けていった。


 少年は白ウサギを追い掛けていくうちに、住宅地にはあまり存在しない、草木が森のように生い茂る狭い狭い道に入っていった。鋭い葉っぱにうっかり触れて切り傷を作らないように注意しながら、白うさぎを追って進んでいくと、やがて視界が開け、何やら東洋的な建物が見えた。少年は、神秘的な雰囲気たっぷりのその建物をじっと見ていた。
(何だろう、これ。不思議なかたちをしてるなぁ…)
 そう考えていたが、ほどなく彼はわれに返ると、探していた白うさぎが居なくなっていたことに気付いた。
「あれ?ウサギさんは?ウサギさん、どこ〜?」
 周りをきょろきょろ見ながら歩いていると、高齢の男性の声がした。
「おや、何か探しているのですか」
 少年が声のしたほうを見ると、そこには立派な白いあご髭を生やしたお坊さんが立っていた。珍しい風貌をしている大人に少し警戒しながら、少年は答えた。
「おじいさん、この辺で、白いウサギを見てませんか」
「はて…ウサギですか。すみませんが、分かりませんな」
「そうですか…」
 少年は、少しゆううつな顔で下を向いた。ようやく顔を上げると、お坊さんに尋ねた。
「ところで、あんまり見ない形の建物だけど、ここは何をする所なんですか」
「はい、ここは『お寺』と言いまして、人々が集まって仏様にお祈りをしたり、ちょっとしたお祭りを行う所ですよ」
「へえ、何か教会みたい」
「そうですね。キリスト教で言う、教会のような所ですな」
 少年はうなずいた。

 ふとお寺の前に目を向けると、木製の箱がある。
「おじいさん、あの茶色い箱みたいなものは、何ですか」
 お坊さんは、大きくうなずくと、答えた。
「よくぞ聞いてくれました。これはね、『再会箱』と言ってですね…」
 お坊さんの話をまとめると、その箱には不思議な力があり、疎遠になった人の名前を書いた紙をその箱の中に入れると、その人に再会できるということだった。少年は、夢のあるその話に興味津々で、話を聞き終わると「再会箱」のほうに向かった。

 (でも、俺の会いたい人って、誰かなぁ…)
 まだ11年しか生きていない少年が、疎遠になった人といったら、転校していった何人かの友人ぐらいだろうか。それでも、彼らは彼にとって、今すぐに会いたい人でもない。ちょっと考えていると、ふっと1人の人物が頭に浮かんだ。その人のことはほとんど何も覚えていないけれど、確かに自分と一緒に居た人である。

 少年は、紙と筆ペンを持った。すると、お坊さんが慌てたように言ってきた。
「幾つか、注意してもらいたいことがございます」
「何ですか」
「まず、再会できる人は一生で1人だけであること、一生でたった1回だけであること、そしてそのお相手との関係は続けることはできません」
「どうして?」
「もともとは会うはずのなかった人々が再会するのは、運命をちょっとだけ曲げることです。曲がったものは、真っすぐにしなくてはなりません。ですから、そのお相手との関係を続けようと思ってはなりません」
「う〜ん…」
 お坊さんの少し難しい話に、少年は黙ってしまった。しばしの沈黙のあと、彼は口を開いた。
「何かよく分かんないけど、俺、書いてみます。会いたい人が居るんだ」
 お坊さんが、穏やかに答えた。
「そうですか。では、どうぞ書いてください」
 少年は、初めて使う筆ペンに戸惑いながらも、会いたい人物の名前を書いた。