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Red Rose(『Lady Rose』スピンオフ)

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 まるで電流が太くて熱い一本の棒になったかのよう、それに貫かれた体は激しく痙攣するが、磔台にくくりつけられているので仰け反ることすらできない。
「あらあら、そんなに目を剥いて……お目めが飛び出しちゃうわよ、ふふふ」
 電流が切られた。
「んふー、んふー……」
 口から充分に息をすることが出来ない、そして心臓は早鐘を打っている。
「んぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
 二度目の電流……心臓が締め付けられるようだ。
 そして再び電流が切られると同時に、メイリンは意識を失った……。

▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽

 収納を改造して作られた小さな牢……人ひとりがなんとか横になれる程度のスペースしかない。
 そこにメイリンは閉じ込められていた。
 後ろ手に手錠を掛けられて。

「嫌……出して、ここから出して……」
 意識を取り戻したメイリンがつぶやくと、それを聞きつけたのだろう、Red Roseが近付いて来る。
「お目覚め? 思ったより苦痛に弱いのね、あれしきで失神するとは思わなかったわ」
 山小屋の中の灯りは蝋燭一本だけ、Red Roseはその灯火で煙草に火をつけると一息大きく煙を吸い込み、数秒間それを肺に溜め、ふうっと吐き出した。
「まあ、いいわ……あんたの恥ずかしい動画を旦那に送ったけど、まだ何の反応もない、もっとも、あたしは別に良いんだけどね、旦那が要求を呑むまで責めを続けて楽しめるんだから」

 ケラケラと笑い、牢に背を向けた瞬間だった。
 Red Roseは鉄格子に激しく後頭部を叩きつけられた。
 牢の中から手を延ばしたメイリンに髪を掴まれて引き寄せられたのだ。
「ぎゃっ……うぐっ……」
 メイリンはすかさずRed Roseの長い髪をその首に鉄格子ごと巻きつけて締め上げる、そしてRed Roseが怯んだ一瞬の隙をついてその両腕を掴み、牢の中に引き込んだ。
 ガチャリ。
 Red Roseの背後で手錠が冷たい音を立てた、後ろ手に手s上を掛けられて鉄格子にくくりつけられたのだ。
「一体どうやって……」
「手錠のこと? ピッキングに決まっているでしょ?」
「体中の穴と言う穴は全て調べた……ピンなんてどこにも……」
 メイリンはぷっとコイル状に巻かれたピアノ線を吐き出した。
 歯だ……歯に絡ませてあったのだ、矯正の針金と思って見過ごした……。
「お前は一体……うぎっ……」
 メイリンは問いに答えず、その代わりにRed Rose両方の親指を無理な方向へ捻じ曲げる……骨が乾いた音を立てた。

 苦もなく牢の鍵も開けて外に出たメイリンは薄笑いを浮かべるだけだが、殺し屋であるRed Roseはメイリンが只者でないことがわかる。
 親指を使えない以上、もしピンを隠し持っていたとしてもピッキングのような細かい作業は不可能……この女は自分の逃げ道を完全に断ったのだ。

「あんた、メイリンじゃないわね……何者なの?」
 謎の女は無言で背を向ける、すると蝋燭の淡い明かりを受けてその背中に白い薔薇が一輪浮かび上がった。
「お前は……Lady Rose……その背中一面の刺青はその薔薇を隠すために……メイリンとすり替わっていたのね……」
 Lady Roseはその言葉に耳を傾けるでもなく、Red Roseのバッグをまさぐってジーンズとトレーナーを身につけると、勝手に煙草を取り出して火をつけ、初めて口を開いた。
「反撃するワケに行かないのをいい事に、随分と痛めつけてくれちゃったわね」
「……殺せ……」
「あたしが? あなたを? そんな面倒な事をするもんですか」
「あたしをどうするつもり?」
「どうにも……このまま放置するだけ……自分で言ってたじゃない、あなたがいなくなっても誰も探しはしないって、そしてここはあなたと同じように誰にも知られずにひっそりと存在する山小屋……抛っておけば『何か』が始末してくれるんじゃないかしら? 人ではない『何か』がね……」
 Lady Roseはテーブルの上からサバイバルナイフを取り上げた。
「これだけ貰っていくわね、山を降りるのに必要かも知れないから……それと、もう一つ……これだけは我慢ならないのよ」
 コードネームRed Roseの由来となった赤い薔薇の刺青に×印が刻まれ、赤い血が滴る。
「劣化コピーの存在は不愉快なのよね……人ではない『何か』に血の匂いを嗅ぎつけられないと良いわね、幸運を祈っててあげるわ、もっとも、いくら祈っても時だけは止められないけど……じゃあね……」

 そして、Lady Roseは扉を大きく開け放したまま山小屋を後にした……。

(終劇)