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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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聞く子の(むかしの)約束

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「木田君は、ちょっと人と行動が違うね」
山戸さんがよくこう言っていた。それはキクちゃんをエスコートする癖がついていたので、目上の人に対する動作が、失礼の無いように配慮されていると気付く人が多く、ここぞという場面で、よく起用してもらえた。
 私は山戸さんの事務所に入って2年で、秘書になった。初めは先輩の秘書の女性から教育を受けた。その直子さんは、美人だが厳しい女性でよく怒られた。口癖は「ズレてる」だった。私がうまく動かないと必ずそう言われた。
 よくよく考えれば、キクちゃんにも同様に教育されてきていたので、女の人にこういう言い方で扱われるのに慣れていたが、キクちゃんみたいに、笑顔で言ってほしかった。結果として、直子さんは怖い先輩だった。
 直子さんは秘書を引退した後、岡里さんと言う女社長のところに行った。その方とは、山戸さんも旧知の仲で、一緒に事業を展開することもよくあったので、直子さんとはその後も交流が続いていた。そのおかげで、私は岡里さんとも一緒にビジネスをする機会がよくあった。でも、間に直子さんが入るので、岡里さんが私の名前さえ覚えていてくれているのか、よく分からなかった。
 一昨年のクリスマスに、300人ほどのパーティーがあり、私はそこで約15年ぶりに岡里さんに会った。でももう私のことなど覚えてくれていないだろうと思っていたので、挨拶には行かなかった。実はその場で私は大きなミスをしていたからなのだが、それはドレスコードが“セミフォーマル”だったにもかかわらず、現役秘書の柳原が、久しぶりに出席する私に、そのことを連絡してくれていなかったので、うっかりグリーンのジャケットで行ってしまった。皆と握手しながら、ルパン三世みたいだと笑われたが、岡里さんは怒っていたらしい。
 後で柳原に聞いたのだが、その時、岡里さんは、
「あの緑の人誰? ドレスコードが分かってない人が居ては困るわ」
「山戸さんの元秘書の木田さんです」
「え? 木田君? 彼がそんなミスをするはずが無いわ」
で、柳原の連絡漏れがバレて、怒られたそうだ。
 岡里さんが私のことを、そんな風に当時から評価してくれていたなんて、想像もしていなかった。それもきっと直子さんが、好く言ってくれていたからだろうと思う。