聞く子の(むかしの)約束
彼の話ならどうせヤバイ話に決まっている。金の無心や、ねずみ講の誘いかもしれない。でも面白い話に決まっている。
店に着くと、ガレージに大型バイクを停めている慎之介がいた。彼はエンジンを切った後、ニターっと笑いながら、握手を求めてきた。
「久しぶり!」
私は彼のこの態度に少し驚いた。握手する知り合いなどいなかったからだ。
私たちは店に入ってしばらくは、近況報告のような話をして、彼のドタバタ人生を笑った。そして、就職した建築会社の社長が、その大物と幼馴染だったとかで、飲みの席で紹介されて、今はその人の家に勉強のために通っていると言うのだ。
「何の勉強のためだ?」
「ビジネス」
「はあ?」
「まあ、変に思うだろうけど、いろんな職業の人が集まって、成功塾のようなことをしてるんだ」
「なんか、怪しい怪しい!」
「そう思う?」
彼は、私の表情を確かめるように見詰めながら、ニターっと笑った。
「変な宗教とか?」
「関係ない」
「会費を取られるとか?」
「その人の家にいるだけだからタダ。セミナーとかだったらお金要るだろうけど」
「・・・・・そこで、何の話をするの?」
「ビジネス」
「いや、それが分からないんだよ。仕事とかって言うならまだしも、ビジネスって」
「仕事とか作業じゃないんだ。ビジネスさ」
「カッコよく言ってるだけじゃないか? その人は仕事何してる人?」
「聞いたところによると、200社ぐらいの会社を経営してる」
「200!? お前、今、200って言った?」
「300だったかな?」
「いい加減なこと言うなよ。そんなに会社経営できるわけないだろ」
「家族でやってるらしいんだ。お兄さんがグループの会長で、その人は次男、もう一人弟がいて、皆大金持ち」
「名前は?」
「山戸」
「ん?」
「ドゥーインググループの」
「聞いたことあるような・・・」
「1日で何十億売り上げることもあるって」
「預金してくれるかな?」
「聞いてみれば?」
「会わせてくれるのか?」
「向こうが会いたいって言ってる」
「なんで? 面識もない俺に?」
「俺から話しといた。面白い男がいるって」
作品名:聞く子の(むかしの)約束 作家名:亨利(ヘンリー)