日常に潜む正気と狂気の交錯
近くにおじいさんはいないようだった。すると飽きたのか小学生二人組は掛け声と同時に通学路を走って去って言った。サラリーマンも小学生を追う形でボロボロになった案山子を横目に田んぼを去っていく。
【三日目の夕方】
●電話をしながら家に向かって歩いているサラリーマン。
サラリーマン 「え?これから?行けなくもないけど…映画見たいんだよなー
いや、今日はたまたまだよ。
たまたま仕事が早く終わったからこの時間に帰れてるだけ
明日はいつも通り夜遅いよ
あーわかったわかった。一旦家帰ってから着替えてそっち向かうわ。
うん。うん。じゃあ駅ついたらまた電話するね、うん。はいーじゃあね。」
●いつもより早めに退社できたサラリーマン。日も落ちてないうちに帰れたので昨日出したクリーニングを回収しようと例の田んぼ道を通って帰る。田んぼ道に差し掛かり、
もちろん案山子もいつものように立っている。今朝小学生2人組みにボロボロにされた個所も既に綺麗に直されていた。サラリーマンは案山子の前に立ち止まり、
案山子の顔をみる。
今朝まで顔に張ってあった
――案山子の顔も一度まで――
の張り紙が無くなっていた。
それを確認すると同時に、例の小学生二人組がちょうど下校してきた。
サラリーマンが案山子の前に立っているのを特に気にする様子もなく、真っ先に
案山子に悪戯をしようとしたので、サラリーマンも思わず声を出す。
サラリーマン 「やめなさい!」
●びっくりする小学生二人組
サラリーマン この案山子はおじいさんが大切にしている案山子だから、悪戯はやめなさい!
●いきなりの大人からの注意に継続してびっくりしている小学生。
サラリーマン 「わかった?」
小学生①② 「はい。すいませんでした。」
小学生① 「いこ。」
小学生② 「うん。」
●小学生二人は小さく頷きトボトボとその場を去って行った。
サラリーマンも小学生を叱ったことで、何となく複雑な気持ちになったので、すぐにその
場を去ろうとする。するとそこへ、おじいさんがやってくる。
おじいさん 「あら、もしかして昨日のお兄さんか?」
サラリーマン 「あぁ、どうも。」
おじいさん 「さっき窓から、チビっこが家の前を通るの見えたから慌てて出てきたんだよ!」
サラリーマン 「そうだったんですか。なんか、また案山子をいじめようとしてたんで、僕が注意しておきましたよ。」
「だからもう、大丈夫じゃないですかね?」
おじいさん 「いや、どうだかなーガハハハハ」
サラリーマン 「ところで、おじいさん。」
おじいさん 「ん?」
サラリーマン 「なんで、包丁もってるんですか?」
●遠くでトボトボ帰る小学生二人組を見つめながら、おじいさんは楽しそうに笑った。
終
作品名:日常に潜む正気と狂気の交錯 作家名:月とコンビニ