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日常に潜む正気と狂気の交錯

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日常に潜む正気と狂気の交錯
                              著:大島恭平

【二日目の朝】
●目覚まし時計の音
サラリーマン  「んん…」
●寝ぼけながら手で目覚まし時計を止め、ゆっくりと起き上がる。
 そこから会社へ行く準備をして、家を出ようとするが、
 クリーニングに出す服を持って行くのを忘れたことに気づき
一度リビングまで引き換えし、服の袋を持って家を出る。


●家を出たサラリーマンはクリーニング屋に行く途中、田んぼ道の前を通る。
 ふと、そこに立っている一体の案山子に目に留まる。
 それと同時にサラリーマンの後ろから通学途中の小学生二人組が走ってきた。
 学年は一年生。

小学生①  「この足はMAXダッシュが使えるから、めっちゃ速いんだー」
      「ギュオーン!!パキューン!!ゴーゴー!」
小学生②  「それならば、くらえ!ストリートトルネード!
      グルグルグルーバーン!」
●各自の必殺技のようなものを叫びながら、楽しそうに走ってサラリーマンを追い抜く。

小学生①  「ギュイーーーーーーーン」
小学生②  「待って!待ってーーーー!ドルルルルーン」

●それを遠巻きに、微笑ましく見るサラリーマン。
 すると小学生二人組が案山子の前で足を止めた。
●田んぼに中に足を3歩踏み入れ、

小学生①  「MAXキック!キック!キック!」
小学生②  「トルネードパーンチ!トルネードチョーップ!」

●小学生二人組が案山子に連続で攻撃を加える。

小学生①  「手ごわい邪悪な敵め!」
小学生②  「今日こそはぶっ壊してやる!」

●小学生二人組、もう2、3発打撃を加える。案山子が身に着けている衣服が乱れ、重心も右へ傾いてしまった。
そして気が済んだのか小学生たちは田んぼから道に戻り、楽しそうに走り去ってゆく。
 サラリーマンも特に注意することなく、小学生たちの攻撃が終わったと同時に止めていた足を動かし、案山子の前を通り過ぎる。遠巻きでは分からなかったが近くで見ると
 案山子の顔には何か張り紙がしてあり、文字が書いてある。
 道路から案山子までの距離が少々離れているため、横目で目を凝らして確認すると…


――案山子の顔も二度まで――
と書かれていた。
その文字を確認しつつ、案山子の前を通り過ぎ、そのままその場を去るサラリーマン。
「案山子の顔も二度まで」という単語が気になったので歩きながらスマホに
 入力してみるが、目ぼしい情報は見つからず、サラリーマンもクリーニングや今日の仕事の準備があるので、案山子と単語の事はすぐに忘れた。


【二日目の夜】
●夜。仕事が終わり、家まで歩いて帰っているサラリーマン。
 ふと、帰り道に朝の案山子を思い出し、その前を通ってみることに。
 田んぼ道が見えてくると同時に一体の案山子も見えてくる。
 案山子を確認した瞬間、その横に人影があるのを察知する。近づいてみると
 おじいさんが案山子の修理をしている。

サラリーマン  「何やってるんですか?」
おじいさん   「…」

●通りから案山子までが少々あるせいか声が届いていないのでサラリーマンは少し声を張る。

サラリーマン  「すいません!」
おじいさん   「おー!びっくりしたーー!」
サラリーマン  「いきなりすいません、ちょっと何してるのかなーと思いまして」
おじいさん  「あぁ。これ?みたら分っかんだろぉー?案山子壊れちったから俺が愛情込めて直してるんだがねー」

●おじいさん、案山子の修理をしながら、サラリーマンと会話する。

サラリーマン 「これ、おじいさんの?」
おじいさん  「そうだよ?この田んぼの俺のだ。何―?仕事帰りかい?」
サラリーマン 「あぁ、そうです。仕事終わって帰るところです。」
おじいさん  「はぁーーそりゃご苦労さん!」
サラリーマン 「ありがとうございます!」
おじいさん  「この近くなのかい?」
サラリーマン 「こっから5分くらいのところに住んでます。
おじいさん  「へぇーーーー大変だ、毎日。
サラリーマン 「そうですね。おじいさんも大変じゃないですか?」
おじいさん  「あぁ、俺は全然。もう将棋ばっかだよ。ガハハハ
       あとは田んぼ仕事。
よし、あとはこれ張ればーお終いだ!完璧だなー」

●おじいさん、修理した案山子の顔に紙を貼る。その紙を確認するサラリーマン。

――案山子の顔も一度まで――

サラリーマン 「あれ?今朝は確か「案山子の顔は二度まで」じゃなかったですか?」
おじいさん  「おぉ。よく知ってるな、あんた!がハハハ」
サラリーマン 「今日の朝、ここ通りかかったんで。」
おじいさん  「昨日からこいつが近所のチビっこ二人に悪戯されちゃって、もーう困ってんのよ。
       昨日の朝、悪戯されてるの見つけて、夕方に家の窓から田んぼを見たら、案山子悪戯してんの見っけたから、もうダッシュでその場に行って叱りつけてやった。ガハハハ!その時にわざわざ親切に
       【案山子の顔も3度まで。どんなに動かない案山子でも3回も悪い事されると、怒るんだからな】
       と言ってやったんだ。チビっこ達をビビらせるために念のため張り紙張っておいたのに、あいつら全然反省せずに今日も悪戯して。
       昨日の朝と夕方、そして今日の朝と夕方。もう4回もやりやがって!」
サラリーマン 「はぁ」
おじいさん  「だからね、これが最後だよ?と忠告しとるんですよ、俺は!案山子が襲ってくるぞーって
       それに俺が毎日こうやって治してやらねーといけねーし。許せネェな全く!ガハハハ!」
サラリーマン 「ははは、そうですね」
おじいさん  「酷いんだからー。この顔の紙も、俺が朝起きて書いたんだよ?」
 サラリーマン  「へぇ、そうなんですか。」
おじいさん  「あ、そうそう。案山子と言えば俺の田んぼなんだけど」

●サラリーマン、話が長くなりそうだったので慌てて話を終わらせようとする。

サラリーマン  「あ、すいません。ちょっとクリーニング取りに行かなきゃいけないので
        そろそろ失礼します!」
おじいさん   「あぁ、そう?クリーニングなんだねー今の若い子は。」
サラリーマン  「まぁ、そうですね。で、では失礼します。」
おじいさん   「はいよーー」

●クリーニングを口実に、その場を逃げるように立ち去るサラリーマン。


【三日目の朝】
●サラリーマン、昨日と同じ時間に家を出る。おじいさんに会うと少し面倒だが
 案山子が気になったので、田んぼ道を通って通勤する。
 田んぼ道に差し掛かり、案山子も見えてきた。
 するとそこには既に昨日の小学生二人が案山子に悪戯をしていた。
 拾ってきた木の棒を使って、昨日同様必殺技をぶつけている。

小学生①  「MAXソード!ザクッ!ブシュっ!ドシャー」
小学生②  「ドルネード回転スーパー斬り!斬り!ドーン!」

●案山子の顔に張られた紙もボロボロになっている。
 サラリーマンは周りを見渡して、おじいさんがいないか確認する。