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藍城 舞美
藍城 舞美
novelistID. 58207
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ケン・ポストマンと元歌手の女

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 学校見学のあと、家に帰った私は、1回深呼吸をして、その封筒を開けてみたわ。便せんを見ると、確かにジョアキムさん直筆の文が書いてあった。こんな感じでね。

「親愛なるロザリー・メイ様

 長くご無沙汰しているけれど、お元気にしているかい。僕は相変わらず、荒波にも似た激しい業界で活動しているよ。
 
 実は今回君に手紙を書いたのは、僕自身が、深い後悔を幾つも抱えていて、その一つがロザリー、君のことだからだ。

 僕は「あの悲惨な事故」の一報を聞いて、自分の心の半分以上が崩壊したような気がした。かわいがっていた若手の子が、こんなに早く空に行ってしまうなんて…!彼の死の原因をつくったのが君だと分かったとき、いよいよ現実が信じられなくなった。『なぜ、君がそんなことを』、そんな思いが胸をよぎったけれど、それはいつしか怒りに変わっていた。それで、怒りの文面の手紙を君に書いてしまった。
 その後、君はソロでさえ音楽シーンに姿を現さなくなった。幾つかのマスコミでも、「ジョアキム・ウッドの逆鱗に触れた人殺しミュージシャン」、「ロザリー・メイ、あるいは音楽シーンに居場所をなくしたシンガー」とか書かれていたことは、今も鮮烈に覚えている。

 今思うと、僕があの手紙を送ったのが間違っていたんじゃないかと思う。実はあのあと、僕はもう少し想像力を働かせてみたんだ。僕は君の人柄をよく知っている。夢を木っ端微塵にされた若手バンドと同様に、一連の出来事で心が深く傷ついているのは、君も同じかもしれない。もしそうなら、僕はさらに君を傷つけてしまったことになる…。そう考えると、僕の胸も苦しくなった。そして、『あの事故』のことを許したわけではないけれど、できることなら、君に何かしら手を差し伸べたい、そんな思いを持つようにさえなった。

 同封したCDは、僕の20年近く前の曲だけれど、君への贈り物として、便せんと一緒にどうか受け取ってほしい。

 これ以上長い文章を書くと、君はうんざりしてしまうだろう。だから、最後に言うよ。

 もし僕と君に十分な時間があれば、僕がよく行ってた、こぢんまりとしたあのカフェで、君に会いたい。そして、君の『現在』を、聞かせてほしい。

 突然の手紙を送ってきたことを、許してください。

                                                            愛を込めて
                                                              ジョアキム・ウッド」


 ロザリーは、デビュー当初の自分のプロデューサーの心を知って、涙腺が決壊した。
「ジョアキムさんは、私にそんな気持ちを持ってた…。少しでも、優しくしようとしている…。こんな、こんな悪いことをした女にも…」
 彼女は、嗚咽を何度も漏らしながら、同封されていたCDをプレーヤーにセットし、「Play」ボタンを押した。曲は、「Φ」が誇る究極のバラードと言ってもいい、「Eternal Rose」だった。ロザリーは、この名曲を聞きながら、いつの間にかベッドに突っ伏していた。