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藍城 舞美
藍城 舞美
novelistID. 58207
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ケン・ポストマンと元歌手の女

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私の名前はロザリー・メイ。昨年末、心ならずもロックバンド「LOVE BRAVE」のギタリスト、ティム・シュルツを死なせてしまい、裁判で懲役3年、執行猶予3年の判決を受けたわ。その後、私は音楽業界を去り、現在は保育士資格を取るための学校を探している途中なの…。

 そんなある日、私は、すごい人に会ったのでした。


 あれは、5月の15日過ぎだったかしら。私はトロント市内の某公園のベンチに座り、透明な風に吹かれながら、ぼんやりと宙を眺めていた。保育士資格を取るためのカレッジのキャンパス、雰囲気はどんなものかしら。どんな人々がそこに集まるのかしら。私みたいに頭のない人が、授業に付いていけるかしら…、そんなことを考えながらね。

 そのとき、妙に上手な鼻歌が聞こえてきた。ファルセットがとてもきれいで、私は声の主の顔を見たくて、声のしたほうを見た。そこには、真っ赤な自転車を立ち漕ぎしている、郵便屋さんらしき人が居たのよ。
(えええっ、郵便屋さん?何でこの公園の中を通ってるの?)
 私はそんな疑問を持ってしまったけれど、その郵便屋さんっぽい人は、キー、キキーと甲高いブレーキ音を響かせて、何と私の目の前で止まった。え?あれ?もしかして、私に用があるのかしら。

 アジア系に見えるけれど、彫りの深い顔立ちで、黒っぽいくしゃくしゃの髪をしたその郵便屋さんは、私と目が合うや否や帽子を外して、
「こんにちは」
 って、明るく挨拶をしたわ。私も、
「あら、こんにちは」
 と返した。そしたら、その郵便屋さん、
「ロザリー・メイさんですね?」
 なんて言ってきた。私はもちろん、
「え、あ、はい、そうですけど」
 と肯定したけど、
「ところで、あなたはどちらさまですか」
 つい、疑問が口から出ちゃった。
「申し遅れました。私は、ケン・ポストマンと申します。ジョアキム・ウッド様からあなた様への、一通のお手紙をお届けにまいりました」
 ジョアキム・ウッド、その名前を聞いたとき、私は全身を針で刺されたような感じを覚えた。私は、震える声で尋ねた。
「ジョアキム・ウッドって、あの、『Φ』(ファイ)のドラマーの方ですよね…?」
「おっしゃるとおり」
 そう聞いて、私はできることならここから逃げたくなったわ。ジョアキムさんとは、長年深い親交を持っていたけど、「あの事故」をきっかけに、関係を断たれてしまったから。動けないでいる私に、ケン・ポストマンは一通の封筒を差し出してきた。
「こちらがそのお手紙でございます。どうぞお受け取りください。しかし、この差出人様は変わってらっしゃいますねぇ。CDまで同封なさいましたよ。」

 私は受け取りを拒否っても悪いと思い、取りあえず手紙は受け取った。まるで某宝飾品ブランドの箱の色みたいな、きれいな青い封筒の手紙。
「お手紙、確かに受け取りました」
 ちょっと無機的に言うと、彼は話を始めた。

「あのぅ、まだ少々説明がございます。えー、この手紙はですね、『深い後悔を抱えた人』にだけ、一生に一度届く手紙なんです」
「深い後悔って?」

 郵便屋さんの説明は、だいたいこんな感じね。


 ある日、『深い後悔を抱えた人』の郵便受けに見たこともないレターセットが届く。中を開けると、とても綺麗な空色の便箋と封筒が入っている。

 そして、ただし書きには短くこう書いてあるらしい。


『あなたの抱える後悔をこの手紙に託して、届けたい人の名前だけを宛名に書いて下さい。遠い外国、過去、未来どこの誰へでも私が必ずお届けします。 
ポストマン』
 
 バカバカしいと書かずにゴミ箱に捨てるのも自由。信用しないまま気持ちをぶつけるように紙に走らせるのも自由。

でも想いを便箋に乗せて、封筒の箋をしっかり閉じ終えた人の元にだけ、ケンは本当にやってくる。

配達する空色の手紙を受け取るために。募らせたその想いを誰かへと繋げる為に。


「じゃあ、ちゃんと届けましたからね。その手紙を読むにしろ読まないにしろ、こっから先はあなたの自由です。では、私はこれで!」
 ケン・ポストマンさんは、さわやかに手を上げると、鼻歌を歌いながら自転車を漕いで去っていった。やっぱり聞いてて気持ちいい鼻歌だったわ。

 でも、どうして突然、それも関わりを断ったはずの人から手紙が来たのかしら…?