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秘密

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 ゴールデンウイーク。妻は子供を連れて実家に帰っている。まあ、俺が連休の初日に送って行ったのだが。
 さほど遠くないから年中帰っている。義理の親もかなりの歳なので様子を見に行くのは俺も賛成だ。
 一人残されて、何もすることが無い。だからこの際、大掃除をすることにした。
 と言っても、実際に家を掃除する訳ではない、押し入れや物置にしまっている自分の古い物。もう使わないガラクタを処分しようと思ったのだ。
 まず、物置にしまってある古いPCを出す。PCは基本自作派なので、若い頃から幾つも作って来た。未だに修理は自分でやる。部品を買ってきて交換するだけだから簡単だ。サブのノートPCはメーカー製なので壊れた場合は修理に出すのだが、隣の街にある修理屋を利用する。実は昔の自作の仲間がやっている店なのだ。
 もう古くて使えないPCを幾つか出して車に積み込む。三十分ほど離れた場所に廃棄する電子製品をただで引き取ってくれる所があるので、そこに持ち込む。
 これで物置が空になった。どれだけあったのやら……。
 次に押入れを片付け始めた。ダンボールにはこれも古いものが沢山突っ込んだままになっている。
 燃やさないゴミに出そうとゴミ袋にそれらを入れ行く。古くなって液晶漏れしたゲーム機。動作しなくなった電子手帳。大体が新しもの好きだから、好奇心の赴くままに色々な物を買って来た。
 その中に懐かしい物を発見した。人生で最初に買った黎明期のデジタルカメラだった。手に取って眺めていると色々な事を思い出した。
 確か画素数が130メガほどだったと思う。記録メディアは今のようにSDカードではなくFCと呼ばれるフラッシュメモリーだった、これは今でもあるのだろうが、殆どはSDカードに取って代わられているはずだった。
 中を空けて見るとFCが中に入っていた。それを取り出して見る。あの時写した画像が残っているかも知れない。
 ふと、そんな想いが蘇って来た。そう思うと確かめたくなる。整理は中止してFCをPCの前に持って来る。マルチカードリーダーを出して、FCを組み込んで、それをPCのUSBに接続した。果たして認識してくれるか……なんせもう二十年近く前のものだ。
 コンピューターのアイコンをクリックすると果たしてPCは認識してくれていた。更に、そのFCの所をクリックすると幾つかのフォルダーが現れた。殆どはシステムのフォルダーだが一つだけpictureと書かれたフォルダーがあった。それをクリックする……そこに現れたのは俺の誰にも言っていない。いや正確に妻には言っていない俺の過去だった。

 何枚かの画像には俺と恵美が映っていた。大学の薬学部を出て薬剤師をしていた恵美と俺は一時は結婚の約束をした間柄だった。俺の親友の奥さんの友達と言う繋がりだった。
 当時流行っていた「ウルフカット」の髪型に何時でも流行の服を纏っていた。およそ冴えない俺とは真逆の見かけだったが、紹介されて、出会ってから交際を開始した。恵美が俺の何処に興味を持ったのかは判らない。年齢と言う事もあったのだろう。俺が29、恵美は27だった。
 細い顔をした色の白い娘だった。大きな目が印象的で、見つめられると背中がゾクゾクした。それほど目に力があった。
 全体的に痩せてはいたが、女性として出る所はしっかりと出ていてスタイルは抜群だった。流行りの服が良く似合っていた。
 画像はドライブに行った時のものだった。既に忘れたと思い込んでいた記憶が鮮やかに蘇って来た。二度と思い出したく無い過去を……。
 このドライブでプロポーズをしたのだった。交際を開始して一年だった。
 OKの返事を貰って有頂天になっていた自分が思い出される。だが、それから事態は少しづつおかしくなって行く。そして、結納も済ませた直後だった。いきなり恵美に呼び出された。
 それは、雨がしとしと降る有楽町だった。マリオンが建ったばかりで、その時計の前で待ち合わせた。
 恵美は時間より少し遅れて来た。遅れた事に謝りもせずに
「今、ダイエットしてるから、無駄にお茶も飲みたくないの。このまま歩きましょう」
 その言葉で俺にとって嫌な一日になると直感した。雨の有楽町を並んで歩き出した。
「何か話があるんだろう?」
 傘の雫が恵美に掛からないように気を付けて歩く。
「話と言うよりお願いかな……」
「お願い? 式でのお願いかい?」
 俺はこの時、結婚式での何かのお願いかと思っていた。
「ううん。そんなんじゃ無いの。式なんて挙げないから」
「は?」
 言った意味が判らなかった。
「別れて欲しいの……婚約解消して欲しいのよ」
 表情一つ変えずに恵美は言った。
「どうして! 結納も交わしたし、式の日取りだって決まっているのに」
「嫌になったの。それだけ。結納も指輪も返すから。後で送るから」
 それだけを言うと恵美は雨の中を俺の前から過ぎ去って行った。俺の肩は心と同じように恵美の傘の雫で濡れていた。
 その後はお決まりの婚約破棄となった。あちこちに出そうとしていた式の招待状も全てボツになった。婚約の事を言った親戚や友達関係にも連絡をした。皆、理由を訊きたがったが答えられなかった。3日で体重が10キロ落ちた。なんだ、ダイエットって簡単じゃないかと思った。
 親友夫婦が謝りに来てくれたが、破棄された理由はきっと俺にあるのだろうと考えたから詫びは要らないと思った。
 随分後で、親友の奥さんが俺に教えてくれた事だが、何でも妻子ある男と不倫をしていたそうだ。だが何時まで待っても離婚してくれないので見切りを付けて俺と婚約したそうだ。そうしたら、不倫相手が態度を変えて言い寄って来たとか……。
「別れるから、俺と一緒になろう」
 そんな事を言われたらしい。実際に離婚する為に弁護士を雇ったので、信用したそうだ。それだけ恵美にとってはその男の方が良かったと言う事なのだと思った。理解出来無いがそんなモノだと納得するしか無かった。何でも
「好きでも無い人と婚約した、わたしの苦しみはどうしてくれるのよ」
 本当にそんな事を言ったらしい。
 婚約指輪は二束三文で売った。結納返しは倍返しと言うけど、俺が渡した金額だった。俺の心だけが酷く損をした。

 それから暫くは誰も信じられなかった。特に女性に対して心を開く事が出来なかった。別に一生独身でも良かったと考えた。
 でも噂は広がるもので、多分俺の母親が近所では顔が広いという事もあるだろうが、あちこちからお見合いの話が舞い込んで来た。間に立つ人の顔もあるので、片っ端から合ってみた。
 結果は全て駄目で、9割は相手から即日で断りの電話が入った。残りの1割は「俺でも選択する権利」はあるだろう。と言う相手だった。
 まあ、。それまでは本気で結婚しようと言う気持ちは復活していなかったので、俺の目が曇っていたのかも知れない。
 そんな時だった。俺が20回目の断りの電話を貰ってすぐだった。近所の挨拶をするオバさんに声を掛けられた。
「実は、わたし『仲人連盟』って言う組織のアドバイザーなの。お嫁さんを探しているのでしょう。どう? 入会してみない」
 そんな事を言われた。そんな組織があることは知っていたが、俺の身近には無いと思っていた。
作品名:秘密 作家名:まんぼう