再会箱 Case d
「生まれて……きたかった?」
「当たり前だろ!!」
アタシは飛び降りた。瞬きしても瞬きしても、涙で前が見えない。彼の顔が見たいのに、涙で顔が見えない。
「ゴメン、ゴメンね! あなたを産んであげられなくて、本当にゴメンなさい!」
「もういいよ、わかってる。わかってるって、お母さん」
アタシは彼を抱きしめた。強く強く抱きしめて、潰れるくらいに頬を寄せた。髪を撫で匂いを嗅ぎ、アタシの体にこの子の匂いを染みこませた。
アタシの匂いもする。悔しいけど、アイツの匂いもちゃんとするんだね。あったかいんだね、知らなかった。子どもって、君ってこんなにあったかいんだね。
「お母さん、く、苦しい……」
「あ、ゴメン。ゴメンね痛かった?」
「いいけど別に。フフ……謝ってばっかだね。でも、本当にもう行かなきゃ……。お母さんあのね」
「いいの、わかってる」
「本当?大丈夫かなぁー」
彼の手を取り自分のお腹に当て、その上からギュッと手を重ねた。
「大丈夫、ちゃんと産んでみせるから。今度はちゃんと、お母さんになるから。生まれ変わった君とまた会える?」
「ううん、箱の説明覚えてるでしょ?再会はたった一度だけ。その子はその子、僕は僕だよ」
「……知ってた。知ってたけど」
「だよね、だと思った。最後にあんま心配かけないでよ、タフなキャリアウーマンなんでしょ。フフ……」
「あ、笑ったなー? こう見えて強いのよ。仕事の鬼なんだからね、お母さ……ん」
アタシがそう言った時、彼はもう夕空のオレンジ色に溶けて消えていた。
お母さん……、そうお母さん。アタシ、アタシちゃんとお母さんになるからね。
君と二人で見た、夕焼けに誓って……。
〈了〉
作品名:再会箱 Case d 作家名:daima