ノベリストのアクセス事情に宣戦布告
「ああ、そのノベリストで不正はあっても君の作品は投稿できるわけだろ。それを読める人がいる。それだけでいいじゃないか。そんな赤の他人が二百人読んでもらうより、きっと賢い人は自分の身近に、自分の友達なんかに見せて、読んでもらって、一緒に小説について語りながら、お酒を飲んでる。それが三人だとしたら、たった三アクセスだ。たった三アクセスでも賢い生き方じゃないか。本当に自分の小説を楽しみとしてくれる人がいる方が、ずっと有意義じゃないか。君の二百アクセスはなんというかがらんどうだ。その二百人と会ったりしているのか?友達はいるのか?」
「友達なら国会議員の友達がいます」
チーフは少しあきれた感じで
「その国会議員とよく会っているの?どうやって知り合った友達?」
僕は国会議員とは町内会の運動会でただフェイスブックを交換しただけの友達だから、黙っていた。
「君の小説のサイトも、今問題になっているフェイスブック中毒、Uチューバーが若い時分、膨大な時間を費やしている問題と何ら変わらないよ。若いころは無駄をいっぱいするだろう。僕も若いときいっぱい無駄をした。でも君のしている無駄は何というか本当に未来につながらない、あとで完全に消えてしまう無駄と思えるんだ」
「ノベリストのことはノベリストをやっているものにしか分かりません」
「いや、悪いが大人たちはみんなよくみてる。どこもみんな同じ問題が発生している。君の小説サイトの活動も話を聴いているとだいたい分かっている」
「僕は二百アクセスを出した」
「あのな。友達ってものは百人二百人とできるものじゃなくて、一人、二人と、それもいろんなやりとり、距離が離れたり、ちぢんだり、信頼して、喧嘩してそれでもお互いを認め、ゆっくり友情を育んでできるもんだぞ。本当の友達とはそういうものだぞ。一週間に二百人も友達ができない。自分が小説で表現して、それを受け止める人が一人でも二人でもいれば、不正アクセスなんて、少しもくやしいと思わないはずだぞ」
「国会議員とか君は口に出したけど、何も国会議員だけが偉いんじゃなくて、人の尊敬は、それなりに後輩に手をかけ、話をよく聴き、見守り、面倒なことを無償でする。面倒も一時ではなく長い時間続ける。そうやって一人、二人、三人という人から尊敬されていくもんだぞ。そうやって人は繋がっていくもんだぞ。君は大人の世界というものを少しも分かっていない。」
「小説を趣味にするのはいい。だったらアクセス数のことでギャーギャー騒ぐ暇があったら、少しでも自分のスキルを上げることだけを考えた方が、ずっと賢い生き方だぞ。大人というものはもっと余裕と自信に満ちている」
「僕はノベリストの事務局にひとこと不満をいいたい」
「あのな。意外とみんなが知っているようで、知られていない事情として、君みたいな素人作家がみんなが閲覧できる環境にあること自体、君はノベリストの事務局に不満を言う立場どころか、君たちはノベリスト事務局に感謝をしないといけない立場なんだ。意外とみんなそれを分かっていない。ああいうサイトを管理することは大変なことだろう」
僕はそういった感じで面談を終えたけど、働く意思があることと、寝不足で出勤しないという約束のもと、またスーパーで働くことを許された。
僕はナイーヴだったんだ。
ナイーヴな少年だよ。
僕という少年が終わろうとしている。
僕という少年が終わるんだ。
そして……いつか……きっと……
次の日の朝、えらく朝早くに目が覚めてね。四時半ころかな。僕はジョギングをして、近くの公園から、朝日が昇るのを見たんだ。本当すがすがしい気持ちでね。
僕は家に帰って、昨日確かめるのを忘れてたけど、ポストの中に何か入っている。
見たら、あの石垣島の女の子から手紙が来てたんだ。僕は便せんを開けてみたけど、参ったね。そこには女の子の絵が描かれているんだ。
おじちゃんとわたしって。
女の子はウエディングドレスを描いたんだと思うよ。結婚式の絵、まるっきり幼稚園の絵だったけどね。僕はしばらく、ケラケラ笑いが止まらなくてね。
本当おかしくって笑っちゃうんだ。
僕はまたその便箋を内ポケットにいれ、散歩に出歩いたんだ。
本当すがすがしい思いだね。
でも石垣島の海辺で、その女の子と結婚式を挙げることを想像すると、
僕は胸にチクリとくるんだ。
心にチクリと刺さるんだ。
(了)
作品名:ノベリストのアクセス事情に宣戦布告 作家名:松橋健一