女の開花前線
男が今まで、なかったことのない乱暴な言葉を使って命令した。別人のような迫力であった。ちょっと、怖かった。
「犯して」
女がその言葉をゆっくり低い声で発すると
「犯してください、ていうんや、ほら、言え」
女はためらったが、もうどうでもいいと思った。そうすると、何かが体の中でうごめいた。
「犯してください」
女ははっきりと言葉にした。頭が燃え始めると同時に、体の芯が熱くなっていくのが自覚できた。
「あふれ出てきた、ほんまにいやらしい女や」
「そんなことない」
ぼそぼそと、つぶやいた。
「ねえ、入れて」
「そうか、入れてほしいんか、お願いしますというてみい」
「お願いします、入れてください」
「おまえはええ女や」
「ええ女になったな」
「ええ女になった」
男はめったに挿入しない。
「変な奴」と馬鹿にしても、まったく動じない。
男の性器は小さくて、あまり役に立たない。
「なんで、小さいの、大きくならんの」
「これで、十分、役に立ってるんや」
しかし、道具を使ったりオナニーを繰り返しさせられているうちに、体の反応が豊かになるのが分かった。この変化は大きい。セックスの疑似体験ではあるが、挿入が少ない分、女性の性感帯の開発、拡大に貢献した。女性上位のセックスだったから、女子大生にはまことに好都合だった。
刺激と感覚を分析し、体の奥からの反応と頭での思考とを重ねていき、視線や表情を磨く。ときどき、乱暴な言葉を使うが、そのほかでは嫌がることはまったくしないのも好感を持てた。乱暴な場面はたまにあった方がよい、性感が高揚するからだ。その乱暴な場面設定でも、女が主人公だった。
「ねえ、子ども、生んだげてもいいよ」
「結婚は、せーへん」
女子大生は、体を重ねていくうちに愛情が生まれてきた。人肌恋しい、これは恋愛かも知れない、そう思えた。
「愛してるよね」
「愛してる、けど、ええ大学出てないし、あほやし」
「あほやな、ほんまにあほや」
男が同調しないの腹を立てて、ののしった。
「もっといろんな男とつきあったほうがええ」
「変な人、ほかの男とつきあえってか」
「おれだけやのうて」
「ほかに好きな人、おるんやろ」
男は思案して、
「慰めてくれる女はぎょうさん、いるねん」
「そんなん、おかしい、なんで」
「おまえはきつい」
女は猛烈な対抗心が生まれてきて、不機嫌な表情をした。もう終わりにしようと決心した。女子大生の中にまだある純情さが、男女関係の理解を妨げ、混乱させた。
開花する新入社員
就職すると、人間関係が一挙に拡大した。もはや家族の存在は極小化される。この気分の変化は大きい。社会人になると、アルバイト先の店長との逢瀬も少なくなった。
同期の新入社員と仲良くなり、京大卒のこの男との結婚を意識する。結婚は、三人目の男性選択におけるキーワードだ。20歳代の女のたいていを、結婚は強迫観念のように支配する。
同期の住むマンションに誘われて、体を重ねることになると覚悟した。玄関のドアを開けると、ドアを背中に抱きしめられた。抱きしめられながら、愛されるのだと思うと、体が一挙に熱くなった。同期はいきなり下着に手を入れてきて、花芯をかきまぜた。キスを予想していたのに、男の予想外の行動に衝撃を受けた。もう濡れていたのだろう、ベッドに押し倒し挿入し、はげしく責め立てた。
この男のセックスは一方的でとても受け入れがたかったが、たくましい男根には、はまってしまった。大きいし硬い、この男根の挿入感はたまらない。
穴をあけられたようで、自宅に帰ってからも強烈な余韻に浸った。親に気づかれないよう風呂に入ってすぐに寝た。疲れて眠り込んだ。
朝になっても、体の中心部にある空洞は埋まらない。「会いたい」とメールしてしまう。「部屋に来い」と返してきた。もう、会うたび数度のセックス、身も心も奪われたしまった。したあとの空虚さは耐えがたい、埋めてほしいと、男性を渇望している自分に驚かされた。また会いたくなる、したくなる。
好きだ、好きです、とメールした。会いたくてたまらないとメールした。
男根崇拝と婚約が同時進行した。男に尽くす、男の欲望を満たす努力、懸命さが女を変える。同期は佐賀出身の古いタイプ、女に絶対服従を要求した。涙ぐましい工夫が繰り返された。婚約すると、セックスに感じていた後ろめたさがなくなった。この安心感は、女の性欲を解放させる。
アルバイト先の店長とのセックスは、いったと思っていただけで、絵空事だった。同期はまったく違う。荒々しい、たくましい。奔流に投げ込まれて、いつのまにかいったという感覚だった。
同期は車を持っていてガレージ代もかかるので、余裕がなく、郊外の家賃が安いマンションにいる。女は婚約すると、家を出て、都心にあり広いマンションを借りた。同期の希望であった。都心なら、会合の後、寄れるからだ。
定時退社、とメールする。同期から、木屋町御池のいつもの店で落ち合おうと返信。ちらほら咲きの夜桜を楽しむ。お酒と野菜のおいしい店に入る。菜の花のおひたし、伏見の「蒼空」を味わう。
「Ⅿ、どうしよう」
「いく」
「いこか」
女のマンションへ行く。同期のマンションより、広くて高級なのだ。いつものように、二人掛けの椅子に座る。女がブランデーをグラスに注ぐ。ビスタッチョが皿に。
ミニスカートからのぞく女の太ももをなでる。
「しゃぶれ」
同期が命令する。これからは、同期がこの部屋の主人だ。舐めることには最初、抵抗したが、この男が女を屈服させて、覚えさせた。
くわえて舐める。同期のものをなめるのは好きだ。女は床に座りこんで、上目遣いで男を見る。これも教えられた。
「お風呂、入ろか」
男が風呂から出てくると、女は布団の中で待っている。同期は、クリトリスを口に含んで、舐める。舌で押し付けるようにしたり、吸い込んだりしてほどほどに愛撫すると、ゆっくりと挿入する。
「Ⅿ、気持ちいい、Ⅿ、気持ちいいの」
同期は女に性の方を使用させて、下の名前は使わせなかった。会社でうっかり、下の名前で呼びそうになるからと説明され、同期の指示に女は納得し従った。
「しゃべるな」
男は命令する。
一旦、抜くと、乳首をなめながら、体をぴったり合わせる。
「ねえ、きて」
「もう、がまんできないのか」
「奥まできてください」
押し込んでいく。
「ああ、うう」
女は呻く。女の思い詰めた表情が好みだ。
腰から突き入れる。ずんずん、と動かす。互いに滑らかな摩擦感を味わうと、二人とも睡魔に襲われる。
何かの屋外の音で目を覚ますと、もう夜中。男のものは固くなっている。
「Ⅿ、起きろ」
と、声をかける。
「眠たい」
と女が抗う。
男は、ばしっと女のほほを叩く。乾いた音が部屋に響き渡る。
「足を広げろ」
女はゆっくりと足を広げる。男は上からのしかかる。男根を女芯の入り口に充てて、こすりつける。
「うう、うう」
女は唸った。男は感触を楽しむようにゆっくりと押し込んでいく。濡れてないが、柔らかい。
「これがいい、これがいいんや」
「いいですか、楽しんでください」
「肉と肉とがこすれあってるんや、ええなあ」
女の体は眠っていて濡れてこない。
「摩擦がたまらんな」