ライバル~手~
「でもさ……俺が俺の夢を追うのは勝手だろ?」
「え? あ、ああ、もちろんだ」
「それを応援してくれるって言うなら応援させてやっても良いぜ」
「はは……なんだよ、偉そうに……」
「どうなんだ? 応援してくれるのか? してくれないのか?」
「応援するに決まってるだろ、お前がプロになったら、『昔はあいつとしのぎを削ったんだぜ』って自慢できるからな」
「じゃあ俺もそのささやかな夢を実現できるように頑張らないとな」
「こいつ……」
盛田が拳を突き出し、俺もそれに拳を合わせた。
高校を卒業すると、盛田は酒屋を継ぎ、競技からは退いた。
酒屋の経営は大型スーパーの安売りに押されて大変らしいが、盛田はサッカーで鍛えたフットワークを生かし、配達を充実させて頑張っている、そして出身小学校のコーチになって子供たちにサッカーの楽しさを教えている。
俺の方はと言えば、大学卒業後もプロ・アマ混合のJFLに所属する社会人チームに入って競技を続けている。
そしてホームゲームともなれば、スタンドには盛田が教えている子供達が大挙してやって来てくれ、その応援はチームにも活力を与えてくれる。
アマチュアとは言え、子供達にとって自分がヒーローであるならば無様なプレイは見せられないと言うものだ、おかげで今季は成績が良く、次週の試合の結果如何ではJ3への道も見えてくるかも知れないと言う位置につけている。
『いつかはプロに……』
正直、高校時代にはあまりに遠すぎて実感の沸かない目標だった。
しかし、今は少しづつでもそこへ向けて歩を進められている。
それは盛田が応援してくれているからでもあり、盛田の分まで頑張らなくてはと思う。
辛い時、苦しい時、今でも指先に残るあの時のボールの感触が、盛田と競い合った日々を俺に思い出させてくれるから……。
(終)