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脱獄一代

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ローターが激しく回りだすと、多少アンバランスに機体が舞い上がった。すると俺の身体も引きづられるように宙に浮いた!機内ではバランスの悪さに躊躇しているようだった。やがてそれが俺がぶら下がっていることが原因であることに気づくと、ロープを切ろうとドアを開けてナイフを取り出してきやがった。そして俺は海にドボン!さ。
 俺は泳いだことがなかったが、頑張ったと思うよ。必死にもがいていたら、漁船に拾われた。“あんたサメの餌になりたいのかい?“だと。漁船の親方が俺のことを海上保安庁に知らせると港に迎えが来ていた。俺は次に送られたのは・・・地球上じゃなかった。無重力空間で囚人たちは冷凍されるらしい。「もう二度と脱獄はできないな、残念だな」残酷な顔をした裁判官が嘯いた。だがそこに送られることはなかった。
人権団体だかなんだかが俺の人権とやらについて戦ってくれたからだ。その代表が、みぃちゃんだった。なんてことだい。あの、みぃちゃんがこの俺を助けてくれた。みいちゃんも孫がいるそうだ。えぇっ?孫かね?俺は愕然とした。トイレ行って顔を洗うと、鏡に映っていたのは頭が禿げ上がって皺くちゃの老人の顔。これが俺の顔か。無精髭すら白いじゃないか。
「あんちゃん、あなたはじゅうぶん戦ったわ。これからは楽して暮らしてくださいな。」
みぃちゃんにそういわれちゃぁ、なぁ。
俺は老人ホームに入れられた。1年365日24時間、俺の世話をしてくれるスタッフがいる。快適さ。メシも悪くない。毎日苦も無く暮らしていける。
だがな。楽していると人間、バカになっちまうんだよ。
なんでもやることが無くなっちまうと、ほら観ろ、隣の婆みたいにボケちまうんだよ。
だから俺はスプーンをまきあげた。
皆が寝静まった頃。俺は壁に穴を掘り始めたところだ。

作品名:脱獄一代 作家名:平岩隆