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漢江を恋えて

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 交際の最初の期間は二人にとって一番楽しい時期になった。
 都合さえ合えば逢っていたし、楽しい時間を過ごしていた。良く時を忘れると言う表現があるがこの二人にとっては、それが大げさでも何でもなかった。
 エリは大学の女子寮に入っていたが毎日門限すれすれに帰っていたし、凛も明るいうちに帰宅する事は殆ど無かった。
 お互いにアルバイトをしていたので、逢える時は貴重だったのだ。自然と二人にとって一緒に過ごす時間がとても大切になっていた。
 だからお互いが都合つけるようにアルバイトのシフトを組んだ。
 楽しかった。ただ逢って話をしているだけでも充実していたし、何物にも変えられない時間だった。
 だが、二人の仲が深くなると、お互いの国の習慣から来る疑問が頭を持ち上げた。ある時エリが凛の胸に抱かれながら
「ねえ凛。一つ訊いてもいい?」
 そう言って甘えて来たので凛はエリの瞳を見つめながら
「ああ良いよ。何でも訊いてごらん」
 そう言ってくれたのでエリは
「何時も、デートの費用はお互いが同じだけ払っているけど、これが日本のやり方なの? 韓国では男性が払ったり、ここは男性。次の場所は女性。とかお互いが相手の分も払うのが当たり前なんだけど……勘違いしないでね。わたしが払うののが嫌と言う訳では無いのよ。ただ、ソウルの友達に凛の事を言ったら、日本の交際のルールについて尋ねられたから」
 要するに、ありのままを言ってしまって良いのかと思ったと言う事だと凛は思った。
「そうかぁ~。そんな事までは正直考えていなかったな。ごめんね。今度からは僕が払うよ。そうすれば友達にも言いやすいだろう」
「ううん。違うの! 今までだって、金額が多い時は凛が沢山払ってくれていたし、わたしに不満なんて無いの。ただ、友達の疑問に答える時に言葉に詰まってしまったの」
 国が違えば慣習も違う事は判っていたつもりだった。ここが二人だけの世界なら何の問題も起きなかっただろう。だがここは二人以外にもあらゆる人々が暮らす世界だ。誤解を受けるような事は避けねばと凛は考えた。
「日本では、僕たちの親の世代の頃は男性がデートの費用を持っていたそうだよ。割り勘は殆ど無かったそうだ。でもバブルが弾けてからは、お互いが払うと言う考えになったんだ。教育的にも男女平等が進んだ事もあるけどね」
 エリは凛から日本でも昔は今の韓国と同じだったと聞いて、やがて韓国でも同じようになるのではと思った。
「わたしもアルバイトしてるから払うのは構わないけど……」
 言い淀んでいるエリを見て凛は
「じゃあ、関西方式で行こうか?」
 そんな事を言い出した。
「かんさい方式って? 大阪のこと?」
「そう。関西では、最初の場所の費用。例えば食事は男性が払ったら、その後のお茶は女性が払うとか交互に払うやり方があるんだ。僕たちもそれで行こうよ。それなら韓国のやり方と似ているだろう」
 それなら友達にも説明したかった。エリはソウルの友達から凛が日本人だと言う事で好奇の目で見られたり、色々な事を言われなくなると考えた。
「ごめんね。わたしのせいで、凛に迷惑かけて」
「気にしなくて良いよ。育った場所が違うのだから考えや習慣も違うのは当たり前なんだから」
 それを聞いてエリは凛は益々運命の相手だと感じたのだった。

 楽しい時間は瞬く間に過ぎて行く。情熱の夏はあっという間に過ぎ去り、恋人の秋も二人の恋を衰えさせる事はなかった。そして冬になろうとしていた。エリは留学の結果をレポートに纏めて提出する事が義務付けられていたので、その作業に入り始めていた。
 凛は試験以外には普通の生活を送っていた。仕方ないとは言え、逢う時間が以前より少なくなっていた。夏に二人だけでの旅行の想い出も既に過去の事になろうとしていた。それは、レポートにかかってからエリの機嫌が余り良くなかったからだ。どこか寂しげで、いつも何かに怯えている感じだった。凛はそれが何から来ているのか、朧気ながら判っているつもりだった。ある時行きつけの喫茶店で逢った時だった。エリはコーヒーを口に運びながら
「レポート出したくない」
「どうして? 出さないと大変な事になるよ」
「だって……この冬が過ぎたら、わたしソウルに帰らないとならなくなる。凛と離ればなれになるから嫌なの」
 凛はエリの想いを聞いて、考えていた事が当たっていたと思った。
「でも、それは初めから判っていた事じゃないか」
「じゃあ凛は、一年だけのつき合いと最初から考えていたの? 遊びだったの?」
 感情的になりそうなエリに凛は穏やかな言い方で
「違うよ。君がソウルに帰っても二人の関係は変わらないよ。今まで通りさ」
「でも、逢えなくなる。そんなのわたし嫌」
「僕だって嫌だよ。だから僕がソウルに遊びに行っても良いし、エリがまたこっちに来ても良いじゃないか。大変なら中間で逢っても良いしね」
「でも……わたし寂しい……凛と逢えない生活は考えられない」
「大学を卒業するまでだよ」
「それって……」
「卒業したら僕がエリを貰いに君の家に赴くよ」
 一瞬エリは凛が何を言ったのか理解出来なかった。
「あ、あの、それって……」
「ああ、卒業したら結婚しよう」
「でも、でもきっと父は許してくれないと思う。わたしが日本人と結婚するなんて言ったら殺されるかもしれない。凛だってその場で殺されてしまうかもしれない」
 そう言って嬉しさの中にもその時の事を想像して暗い表情をした。
 凛は、二人の会話に時々出て来るエリの父の事を忘れていた訳ではなかった。
「エリ、僕がその時の為に韓国語会話を勉強してる事は知ってるよね。エリにも発音を教わってるから。僕はエリのお父さんに堂々と『娘さんを下さい』と韓国語で言うつもりなんだ」
「凛……そんな事まで考えていてくれたのね。わたし嬉しい……でも凛の事を好きになればなるほど帰りたくない」
「大丈夫だから今はレポートの完成を第一に考えた方が良いよ」
「判った。でも凛と離れたくない」
「時間を作って逢いに行くよ」
 それでもぐずるエリをなだめて、話を楽しい話題に切り替えた。
「今夜は外泊の許可を貰っているから、凛のところに泊めてね」
 エリとすれは残り少なくなった時間を大事にしたいのだと凛は考えた。
 
 やがて、冬が終わろうとしていた。二月のバレンタインにエリは大きな手作りのチョコを凛にプレゼントした。
「ありがとうエリ。大事に食べるからね」
 笑顔を見せる凛をエリは突然抱きしめた。
「大好き! こんなに人を好きになったことなんてなかった。このまま何時までも一緒にいたい。これからソウルに帰って凛のいない暮らしが続くと思うと気が狂いそう……でも我慢するね。だから連絡ちょうだいね。そしてわたしも東京に来るから凛もソウルに来てね」
「ありがとうエリ。僕も同じ気持ちだよ」
 凛はそう答えてエリを抱きしめた。
「わたし思うの。何で凛が日本に生まれたのだろう。どうして、わたしは日本に生まれ無かったのだろうと……」
「何処に生まれようと、僕たちは出会う運命だったんだよ。だから必ず迎えに行く。それだけは間違い無いよ」
「ホントね? ホントね!」
「ああ!」
作品名:漢江を恋えて 作家名:まんぼう