BLACK DAYの奇跡
「そうか、ならペラペラなんだね」
「でも、難しい言葉や専門用語は未だ未だです」
それから二人は色々な事を話した。それで感じたのはエリは普通の女学生と何ら変わらないと言う事だった。
「ネットでは韓国は反日だって言われているけど実際はどうなのかな?」
凛がそんな話題を振るとエリは表情を暗くして
「一部の人は未だに反日だと思います。わたしの父も日本の事を良く思っていません」
「なら、良く留学させてくれたね」
「母が日本好きなのです。だからわたしも影響を受けて日本が好きになりました」
「それで留学しようと考えたの?」
「はい」
「実際来て見てどうだった?」
「実際、日本と韓国とはかなり差があると思いました。ビルの立ってる場所ではそんなに変わりませんが、街外れに行くと差が広がりますね。それに道にゴミが落ちていないです。どこも清潔で汚す人がいないのが驚きでした。人の意識が違うのだと思います。韓国は日本とは比べられないと思いました」
凛は韓国へは行った事が無かったが中学の頃にアメリカのフロリダにあるディズニーワールドに行った時の事を思い出した。休みの時期なので人は混んでいるが、乗り物などは驚くほど空いている。待ち時間も十分から精々十五分程度で殆どは待ち時間無しで乗れたのだった。園内を歩く人々は、ディズニーの世界を楽しんでいて、乗り物に乗るだけが目的では無いと感じたのだった。そこに余裕と言うか日本人が如何に貧乏性なのかを思い知らされたのだった。
「まあ、でも慣れると思うよ」
「そうかもしれないですね。それと、日本ではイースターのお祭りが流行り始めているんですね。韓国では殆ど話題にもなりません。それと日本ではブラックデイはやらないのですね」
いきなり、知らぬ事を振られて凛は戸惑った。
「ブラックデイ? なにそれ?」
凛が知らないと言うのでエリはちょっと嬉しくなり
「四月十四日に恋人がいない人たちが黒い服を着て集まり、黒い麺を食べるイベントなんです。バレンタインデー、ホワイトデーでも恋人ができない悲しみを慰め合う日として、ブラックデーとして定着したのです。佐々木さんは誰か恋人居るのですか?」
全く直球だと凛は思った。ほんの先程出会ったばかりだと言うのに……韓国人は皆このように良く言えば親しくなるのだろうか? 悪く言えば馴れ馴れしいと感じた。
「いいや、残念ながら僕には恋人はいないよ。エリさんは?」
「いないです」
「韓国に置いて来たの?」
「いいえ、全くいないのです」
「へえ~意外だね」
「わたし、ちょっと変わっていたから」
「どんな?」
「何時も日本の話題ばかり話していたから、嫌われていたのかも知れません。変わった者と思われていたのは事実です。でもブラックデイは逆に恋人を作るチャンスでもあるんです。ひと目で相手が居ないと判るので積極的に声を掛けて回る人もいますから」
そう言ってエリは笑った。
「そうかぁ。良い方に考えれば良い訳だね」
納得する凛にエリは
「こうして知り合ったのも何かの縁です。今日は丁度ブラックデイです。この後何か黒いものを一緒に食べに行きませんか?」
「はあ? 今から?」
「はい!」
積極的と言えば余りにも積極的だと凛は思った。日本の女子ならこんな事を提案する事は殆ど無いと思った。
「判ったよ。でも、こうして知り合ったのだから、わざわざ黒い食べ物を食べなくても良いんじゃ無いかな。日本では今日四月十四日は『オレンジデイ』って言ってね、大切な人との絆を確かめ合う日なんだ」
「大切な人との絆を確かめ合う日……それって、今日一緒に過ごせばその人が大切な人になると言う事なのね……素敵だわ!」
エリは手を胸で組んで瞳を輝かせていた。
「正直に言うよ。一目見た時から君に恋をしてしまった。僕と交際して欲しい」
凛としても、まさか自分が殆ど初対面の人にこんな告白をするなんて思ってもみなかった。正直断られると覚悟していたが
「わたしも、正直に言います。実は落としたパスケースを持って佐々木さんが現れた時、白馬に乗った王子様が現れたと思いました。わたしで良ければ喜んで!」
こうして凛とエリは交際をする事になったのだった。
作品名:BLACK DAYの奇跡 作家名:まんぼう