黄泉明りの落し子 狩人と少年
それからどれほどの時間がたったのか、わからない。
数日かもしれず、数年のようにも思えた。あるいは、ほんの数分しか、経っていないのかもしれなかった。
木々は、波は、歌を歌い続けていた。夕日は、大地を照らし続けていた。
ピクシはうつぶせに倒れ続けていた。涼しい風が駆け抜けていく中で、微動だに、することがなかった。
彼のすぐ傍で一輪の花が、風に揺れていた。
その全身に太陽を浴びて、瑞々しい生の充足に、歓喜しているかのように見えた。
「……だんな」
風に乗って、声が響く。
やがて、始まる駆け足の音――少しだぶついた靴が、岩肌を打つ音。
その音は、だんだんと大きさを増していく。
花に一瞬だけ、影がよぎった――その直後に、足音が止まった。
「……だんな。ねえ、だんな」
足音の主は、屈みこむと、ピクシの肩を揺すった。
「ピクシのだんな――」
少年が呼びかける中で、風が強まっていった。
ゆっくりと、確かに、ピクシの目が開かれていった。
☆終わり
作品名:黄泉明りの落し子 狩人と少年 作家名:炬善(ごぜん)