この都会の営みの中で
確かに長い階段を登ると一面が大きな公園になっていて、真ん中に大きな噴水があり周りを花壇が取り囲んでいる。
二人はその広場にあるベンチに腰掛けた。
「ああいい気持ち」
泰葉が言った通り、空は青く澄んでいて雲一つ無い。春の暖かい風が二人を包んで行く。
「どう悪くない場所だろう」
「そうね。でも何だか判らなくなっちゃった」
「何を?」
「この街の事を水島くんは田舎だって言ったけど、鉄道が三つも走っていて都会だと思ったらこんな広い公園が広がっているなんて」
泰葉の言葉に水島は
「神城さんは、都会だとか田舎だとか気にし過ぎだよ。何処だってそこに住んでいる人にとっては大事な場所なんだと思う」
何だか泰葉は自分が酷く子供に思えた。やはり水島は何処か違うと思った。
「そうだ。さっきの続き聞かせて」
「さっき……ああ、好きだった人の事?」
「うん」
「今、目の前に座ってる子さ」
泰葉は一瞬、水島が何を言っているのか理解出来なかった。
「わ・た・し?」
「そう神城さん。いいや泰葉ちゃん。君だよ! ずっと好きだった。今でも忘れられない。だから僕は神様にお願いしていたんだ」
「何を?」
「一度で良いから、神様泰葉ちゃんに逢わせて下さいって。だから念願が叶ったので実はお礼参りをしてたんだ。神様にちゃんとお礼を出来るまでは自分勝手には行動しないってね。勿論スマホのガラスが割れた事も本当だけどね」
「本当にわたしの事を想っていてくれたの?」
「ああ、最初は単に可愛い子だとしか思わなかったけど、三年間同じクラスになって友達として色々な話をして行くうちに惹かれたんだ。でも卒業したら東京に帰る僕には告白する権利さえ無いと考えたんだ。だから今まで言えなかった。今、交際してる人居るの?」
「ううん。いない。わたしがそんなにモテる訳無いから」
「じゃあ、僕と交際して下さい。お願いします!」
泰葉は今朝までこんな事になるなんて思っても見なかった。まさか……憧れだった水島が恋人になってくれるなんて……これは現実だろうか、思わず自分の頬をつねってみた。
「痛い……本当なのね……こんなわたしで良かったら、宜しくお願いします」
そう言った瞬間泰葉は水島に思い切り抱きしめられた。どちらかと言うとクールな水島がこんな情熱的な事をするとは信じられ無かった。だから本当に水島が自分の事を想ってくれていたのだと実感出来た。
「水島くん。ちょっと痛いわ」
「ごめん。余りにも嬉しくて……断られたらどうしようかと想っていたんだ」
何とも言えない水島の表情を見て、泰葉は胸がキュンとなるのだった。泰葉にとって東京での生活は希望に満ちたものになりそうだった。
空が二人を祝福している感じだった。
<了>
作品名:この都会の営みの中で 作家名:まんぼう