お見受けします。
洗面台の鏡の中の自分の姿を、水無月さんは、無言で見詰めます。
沈黙に耐え切れなくなった様に、<鏡像の水無月さん>が、言葉を発しました。
「小生… ン・ウカショと申します」
自己紹介と同時に、<鏡像の水無月さん>だったものは 初老の男性の姿に変わります。
「実は小生…貴殿の様な、魔力の持ち主を探しておったのです。」
「…」
「是非とも貴殿の力で、小生をそちらの世界に…召喚して頂きたいのですよ!」
期待の目で見る ン・ウカショに、水無月さんは 素っ気なく答えました。
「嫌。魂…取られたくない」
慌てた ン・ウカショは、体を前に乗り出します。
「こちらからお願いして お骨折り頂くのに…そんな筋が通らない事は、致しません!」
鏡の向こうの顔が近くなったので、怪訝そうに顎を引く水無月さん。
それに気が付いた ン・ウカショは、慌てて姿勢を正しました。
「実は…貴殿に この様な事をお願いするには、理由があるのです…」
「─」
「魔界では…人界に召喚された回数が多い程、箔が付くのですが…」
ン・ウカショの声が、弱々しくなります。
「─ 不本意ながら…あまり召喚回数が多くないのですよ、小生は。。。」
俯いた ン・ウカショに、水無月さんは尋ねました。
「体裁を良くするために…人界に召喚して貰う、営業活動?」
「…恥ずかしながら」
黙りこんだ ン・ウカショに、水無月さんが切り出します。
「もし、召喚したら、何…して貰えるの?」
水無月さんの言葉を聞いて、ン・ウカショは顔を上げました。
「ご希望のものを…何なりと!」
一途の望みを託して、ン・ウカショが畳み掛けます。
「魂を、ご所望ですか?」
「…」
「世界征服でも、不老不死でも、巨万の富でも…お望みを何なりと!!」
熱弁を振るう ン・ウカショに、水無月さんは、ボソッと言いました。
「…ケーキセット。」
「は…?」
「特選ケーキセット…<カフェ敦賀>の。」
「─ そんなもので…宜しいのですか?」
頷いた水無月さんに、ン・ウカショは、拍子抜けした声を出します。
「お、お安い御用では…ありますが。。。」