呼び立て
再び、陽の光が入らない様に戸が締めらた広間には、衝立に代わって、布で覆われた屏風が置かれました。
脇息に、時貞は右肘を付きます。
「ところで一九、もう1つ、その方に披露したいものがある」
「何で御座いましょう?」
「余は…先ほどの衝立に雀を描いた絵師に、仕事を依頼したのだ」
時貞は、屏風を指差しました。
「絵を描かせだ。虎のな」
「─」
「その方、屏風から虎が出てくれば、退治出来ると申したな?」
「…申しました」
「それでは、その屏風から出てくる虎の退治、その方に申し付ける」
「承知いたしました。」
慮外な一九の反応に、時貞は訝しみます。
「その方…本当に虎退治が出来るのか?」
「─ 虎が、屏風から出て来るので、あれば」
「…屏風から、虎が出ないと申すのか?」
「どれ程腕がある絵師の屏風でも、描かれていない虎は、出ようがありません故。」
「…」
立ち上がった時貞は、屏風を覆う布を取りました。
「何故、屏風に虎が描かれていないと思った?」
竹林だけが描かれた屏風に、一九は目をやります。
「誤って日が当たるや否や、猛獣が出て来るような危険な屏風、家臣を大事になさる時貞様が作らせる様な事は、間違っても在り得ません」
苦笑した時貞は、上段に座り直しました。
「一九。本日は、大義であった!」
「ははっ」
「次の機会を、楽しみにしておれ。」
「…お手柔らかに、願います──」