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SPLICE ~SIN<前編>

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人里に出た安堵でスプライスは何も感じなかったのかもしれないが、この村にも例の姉弟が通った後があり、『歪み』補正の跡も感じた。
それが、今まで通った中で一番大きい『歪み』だったと感じるのだが(出発点となった村の『禁域』を抜かして)、補正も完全に完了済みであるようなのが不思議だった。
多分同時期に補正されたであろう森の中にあった『歪み』跡はまだ自然に溶け込んでいない雰囲気を感じるものもあったのだが…
そう考えると、バーカンティンは自分が何かを忘れているのではないかと不安になる。
『歪み』から流れてくる『ハザマ』の気配の残り香のような気配をたどればソレも分かるかと思うと、実は今すぐにでも飛び出してソレにじかに触れたい。
スプライスと供にいなければ特に人里では危険だと学習したのでグッとこらえてはいるが…
そんな風に思考しているうちに、モソモソと隣の気配が動いた。
「うぅ…ごめんね、先に寝ちゃって。僕が見張るからちゃんと寝てね?」
思った以上に時間は経っていたらしい。
とりあえず体力を回復させようとバーカンティンは素直に眠ることにした。




「50年ほど前この村に訪れた青年と女性のことを知っている人はいませんか?」
そう尋ねると簡単にその人は見つかった。
というか、よほどインパクトがあったのか当時この村にいたものは全員が覚えているとのことだった。


その辺りの時期は数年にわたって作物は不作で、山に狩りに出ても獲物が禄におらず、村に病人も出始めたりと散々で、既に村から離れ始めるものもいたほどの頃だったという。
そんな時不思議な雰囲気をまとった青年がやってきて(茶色の髪に緑と金のオッドアイが印象的だったとの情報も有った)、作物が生る様になると言う薬と、人間の病気に対する薬を置いていった。
その数日から数十日後(証言がまちまちだった)緑の髪に金色の瞳を持った美女がやってきて(大分主観的な観想を含んでいた)、その手にしていた槍を振るうとたちまち空気が良くなったように感じたという。
その女性は数日滞在し村の中を歩き回った後去った。
その間に何を行ったのかは完全にはわからないのだが、その暫く後から森に獲物が戻ってきて、翌年からは作物もよく実るようになったという。
「んー?」
情報をまとめて、その二人が探している姉弟であるとは分かったのだが引っかかる部分がある。
粗方話を聞いて回った後、トレースの能力をモトに補正跡を探しながら確認する。
「カティサークとやらは、オッドアイだったのか?」
「カティもヴィラも供に両目ともに金色だったよ」
「ヴィラローカってのは『歪み』を補正する能力を持っていたようだが、自分で認識していたのか?」
「してなかったと思うけど…微妙なんだよね」
カティサークも不思議なのだが、ヴィラローカについてはもしかしたらもっと謎なのかもしれない。
「やっぱり二人のお父さんに秘密があるのかな?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。わからないな」
想像は幾らでもできるが、それが正しいかどうかはわからない。
調べるすべも今は無いが…
「ここだな」
バーカンティンが立ち止まったのは変哲の無い畑の真ん中だった。
作物は生っていないが季節外れだからだろう。
スプライスは周囲を気にしてみるが何も感じない。
畑の端に祠らしきものが設置されているのだけが気になった。
「『歪み』ってより、その姉弟が此処で何かをしたって跡が濃い」
どこかを見つめてうーんと唸る。
「二人とも?」
「二人ともだな」
それぞれ別にやってきて、同じ場所で『歪み』を補正しようとしたのだろうか。
「出来るか分からないが、ちょっと調べてみる…」
スゥッと息を大きく吸うと、バーカンティンは目を瞑って周囲に意識を集中し始めたようだった。
邪魔をしないように微動だにせず(そこまでする必要があるかは分からないが)バーカンティンの様子をジッと見つめる。
風が二人の髪を揺らすが、それ以外は動きもしない。
草の揺れてこすれる音、少し冷たく感じる風…

「!」

バンッ!!

そんな音が聞こえた気がした。
「だ、大丈夫?!」
目を開けるとバーカンティンはスプライスの腕の中で支えられてなんとか立っている状態だった。
「…今……」
あまりにも強烈な存在感故、人影まで見えた気がした。
ぼんやりしていて性別も年齢も分らず『人影』であることしか分らなかったが。
二人のうちどちらかであるのは確実だ。
「何かあった?」
「あぁ…」
スプライスにしがみつきながら反芻する。
人影は、ゆらりと動いていた。
その気配は……やはり『ハザマ』を連想させたところを見ると弟の方だろうか。
いや、連想させたというか……思い出したのは『ハザマの中』だった。
ハザマの中で『何か』あった、それに似ている。
それが何だったのかは思い出せないのだが…
「…あれ?」
ふらふらしながらも支えを離れたところで場の雰囲気が変わったことに気付いた。
「『歪み』の跡がない…」
「そういえば、空気がよくなったね」
離れたスプライスにもう一度つかまる。
スプライスもギュッとバーカンティンの腕をつかんで支えた。
そのまま再び『トレース』を行使するが…
今まで来た道とココから伸びている道が見えるだけで、特別ココが存在感を放つ場所のようには感じされなかった。
「…まるで誘っているかのようだな」
この先もこのようなことが幾度かあるだろうことは安易に想像できた。


その晩もう一泊だけする事にした二人は結局宴会を開かれてしまった。
バーカンティンもこの村における気がかりなことが解決した為か、宴会に参加することを快く引き受け…更にこの地で普通に人と接することが出来る程の前世の記憶を戻していることを改めて知った。
「あぁ…あれだ…」
布団にもぐった後思い出す。
「?」
「昼間感じたモノ」
「気配がなくなったね?」
バーカンティンの不審そうな表情も覚えている。


「『ハザマ』の中を漂う意識の一つと似ていたんだ…」


作品名:SPLICE ~SIN<前編> 作家名:吉 朋