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SPLICE ~SIN<前編>

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近くにあるであろう『亀裂』『穴』もしくはその跡より流れてくる感覚に、じわじわと思い出す。
「……小さいものは存在するのかしないのか分からないほどだが、大きいものになるとはっきりと内容も分かった」
その中で何かあったはずだ…特に気になるものが。
「この世界にいる人が、ハザマに近づいたことによって精神的にはもちろんだけど、肉体的に影響を受けるってあると思う?」
「精神と肉体は結びつくものだからソレくらいはありえるだろう」
だから、多分此処も『禁域』なのだ。
それも広範囲が。
「親が影響を受けていて子供がをれを継ぐことってあると思う?」
「…それって…」
「十分ありえるだろうな」
実際に『歪み』の情報を直接得たことがあるからはっきり分かる。
分かるというか、思い出してきた。
此処につれてきた理由は「これか」と納得がいった。
本来ならばブレース一人でもかまわないはずなのに。
「此処に来て大分気配を追いやすくなったよ」
ついていただけのバーカンティンもあたりを散策しだしたりして、結局一番目的が無いのはスプライスだった。
ブレースは一人で穴(であろう)の近くまで行くと言っていたが、直ぐに引き返してきた。
「吸い込まれそうで怖いし、今は必要を感じないし」
ということで。
今いる三人では補正する能力を持つものがいないから不用意に近づいても、いざという時対処できない。
「とりあえず、その姉弟が失踪する直前に此処に来たのは確かだけれども此処から他の地へ旅立っているようだよ」
ここは『禁域』だけあって50年経ってもやって来た人が殆どいないためにトレースが楽だったと笑う。
笑うが、結果はやはり謎を残したままだった。
「一番の収穫は俺自身か?」
笑うバーカンティンにブレースは
「思った以上のようだけど?」
苦笑した。


「どの方向へ旅立ったかは分かるけど、最終的に何所まで行ったのかは分からないなァ…」
再び姉弟の住んでいた家へ戻って茶をすすりながらブレースが首をかしげる。
この家の現在の管理を任されている者である青年はそんな三人の様子を見ている。
書庫の管理をしているだけあって記録をとることにも興味があるらしい。
バーカンティンが見せてもらったところだと最近の村の出来事の記録も書きとめていた。
「話は変わるが、その兄弟の父親がどんな人物だったかってのは分かるか?」
「バーカンティンの思っている通りのコトしか僕にも分からないな」
ちなみに、会話もこの地の言葉で行っている。
此処に来て数日、生活するうちにバーカンティンが思い出して使用できるまでになったからだ。
前世では使用していたが記憶が完全には戻っていなかったために、会話をするには至ってなかった。
「『世界の歪み』の影響をその身に受けた人ってこと?」
二人の会話を確認するようにスプライスが口を挟むのもこの場合は決まったパターン。
先ほどの会話を思い出してみる。
「多分、子供を作る前だと思うけど…」
「もしかしたら、『歪み』があってソレに触れたが故にこの地に家を構えたのかもしれないな。好奇心や知識欲は随分旺盛な人物だったようだし」
この家の状態を見れば分かる。
「予想の範囲内でしかないけどね?」
「まぁな」
普通に年齢を重ねて生きていたとしても姉弟さえ相当な老齢に達しているはずだから、その父親なんて生存はほぼありえないだろう。
それは三人とも分かっている。
「まぁ、考えるのは今後のことなんだけど」
スプライスの心が決まっていることが分かるから、ブレースは迷う。
「足跡追いながらになると思うんだけど、終着がどこか見えないんだよね」
これも幾度か言った。
「だったら…」
「バカ。ブレースだって自身の生活があるんだから俺達の都合で束縛させることなんて出来ないだろう」
スプライスが何を言うかなんて分かりきっている。
以前ならば良かったのかもしれないが、現在はスプライにバーカンティンがいるのと同じくブレースにはブリガンティンがいる。そのブリガンティンは『使神官の間』の扉を使うことは出来ないのであちら側で待っているはずだ。
少しでも長く、一緒にいたいはずなのに。
「そっか…」
ブレースの気持ちをスプライスは痛いほど分かる。
分かるはずなのにスプライス自身はバーカンティンと一緒だからつい失念してしまった。
「ブレース、『移し』はできるか?」
「…え?」
方法を考え始めようとした二人に、あっさりと提案がされた。
「お前の今回の『トレース』の魔法の力だけを俺の移せるか?」
本当にこの地に来ていろいろな事を思い出す。
ブレースは自分の使用した魔法の効力をブリガンティンに与えていることがあった。
前世でのことだが。
「俺の『波長』はブリガンティンとほぼ同じはずだから、ブリガンティンに対して行った『移し』の魔法のやり方でいけそうならば、そう難しくないと思うが?」
ブレースはその提案をポヘッっと聞き入れた。
「……うん、それ良いかも」



外見はいくら若くても、実年齢を考えれば通常では考えられないような長さを生きている。
自身にかけた魔法の効力の一部を他人に『移す』だなんてことはおいそれと出来る事ではないし、そもそもそんな事ができるのかという疑問さえ沸きそうなのだがブレースは存外簡単そうに行なってしまった。
対象が移しやすかったのもある。
バーカンティンとブリガンティンは『双子』のはずなのに、『波長』の感覚だけを見るならばほぼ同一人物と見ていいほど同じなのだ。いくらそっくりな『双子』でも個々の人間として存在する限り違いはあるはずなのだが。
いまさら疑問を持とうとも思わずに作業を終えると、やはりブリガンティンが懐かしい。
「………」
魔法を移された後、バーカンティンは暫らくぼんやりとしていた。
精神を内側に向かわせて力の制御方法を確認しているのかと思われる。
魔法を移す際に制御方法なども渡しているから、あとはバーカンティンさえ良ければブレースは開放される。
「……なんだ……?」
トレースを行なっているのだろう。
段々とバーカンティンが眉を寄せていくのが分かった。
「何かあった?」
心配そうにスプライスが覗き込む。
「この感じは……」
それだけ言って、それについては以後口をつぐんでしまった。
「追いやすいでしょ?」
「まぁなぁ……」
「?」
その魔法を使用できる者にしか分からないのだろうが、具体的にどのような感じなのか、分からないのがスプライスは多少もどかしい。
「後で見せてやるよ」
「あー…うん、わかった」
特殊な何かはありそうだとはスプライスだって安易に想像できるのだが。


「じゃ、がんばって。僕は帰るから!」
『移し』を行なって以後気もそぞろだったブレースは、バーカンティンが制御も行なえると確信し意気揚々と帰って行った。
「何かあったらすぐ呼び戻そうかな」
「それもありかもな」
残された二人はポツリとつぶやく。





この村でやることを終えればあとは旅立つだけだ。

最後に一晩だけ泊まる事にして夜布団にもぐりこむと、スプライスの布団にもそもそとバーカンティンがもぐりこんできた。
「ど、どうしたの?!」
作品名:SPLICE ~SIN<前編> 作家名:吉 朋