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 自分が弁護士バッジを付けまま闇風俗店に入ってしまった事を―――
 

 そして、もし、闇風俗店が裏で暴力団と繋がっていたら―――
 

 そして、もし、私が違法風俗店を摘発する為の証人として、彼女を利用していたと、暴力団に勘違いされていたら―――



 
 彼女の身に危険が及ぶ!

 

 常雄は彼女に連絡を取ろうとしたが何度コールしても繋がらなかった。嫌な予感が拭えず思わず闇風俗店に駆け込むのだが、店の外には閉店という2文字が書かれたビラが張ってあるのみ。
 常雄の嫌な予感は的中してしまった。摘発を恐れた闇風俗は面が割れる前に夜逃げしていたのである。外から見える店内の様子は、何もない。人も誰一人いないという感じだった。それどころか店は、まるで神隠しにあったかの様に、風俗店の面影すら無かったのである。
 そして彼女も恐らくそれに巻き込まれたか―――あるいは・・・
 

 常雄は念のために彼女の住んで居たアパートを尋ねた。だが、彼女が家に帰ってきた形跡は無い。何度も足を運ぶが、やはり彼女は帰らない。
 常雄は彼女の親御さんの連絡先も調べてみたが彼女に家族は居なかった。 
 
 だれからも、捜索願も出されない。
 だれからも、助けるられることは無い。

 常雄は、この時、初めて闇の世界の卑劣さを知った。
 最初から誰にも心配される事のない人を利用すれば、何をしても足が付く事がないのである。
 仮に彼女を証拠隠滅の為に殺したとしても、誰も彼女を気にかける者などい等いないのである。これが奴らの手口である。
 



 常雄は警察に捜索願を出したものの捜査が進展する気配は全く無かった。
 常雄は後悔していた。
 全てはあの日、自分が我を失って、自暴自棄になっていたから・・・
 全ては、それが原因で、彼女を追い込んでしまったからだ・・・
 全ては自分の責任だ・・

 常雄は、自分を責める理由をあれこれと探している内に、自分への憎悪がこみ上げてきた。
 そしてその憎悪の矛先は、最終的に暴力団組織へと向けられた。
 全ての原因は、そこあるといわんばかりに常雄は行動を起こすのであった。




 常雄はまず、弁護士のネットワークを使い、過去の暴力団関係の案件を徹底的に調べた。彼の気持ちが通じたのか、警察関係者に、つながりのある弁護士が協力してくれた・


 調べていくと、
 奴ら違法風俗店は訴訟の警告を受ける段階で逃げている事がわかった。
 偽名を使いヤバクなった逃げる。別の土地で、また偽名を使い風俗店を経営する。
 同じような手口で、全国を転々と移動していた。。

 だが、奴らの正体、居場所などは特定できなかった。
 別の暴力団達も同じような手口で違法風俗店を経営していて、それが無数に存在するのだ。どの風俗店が、どの暴力団と繋がりがあるのか、全くわからなかった。


 弁護士仲間の話によると、日本中のあらゆる土地で、これと同じ犯罪が繰り返されているのだそうだ。、
 警察も犯人を捕まえても捕まえても、違法風俗店の数が減らない事に嫌毛がさしているのだそうだ。、

 常雄は、腹を立てていた。暴力団という卑怯極まりない暴力団に腹を立て、また、それを肯定してしまってる人々総てに腹を立てた。そこに通う客。そこに違法風俗店があるのに、周りの人間が気づかない無頓着さ

 だが、それは、常雄にとっては自分に対しての言い訳にすぎなかった。
 常雄は責任を感じていた。自分が彼女に大金を吹っかけなければ、闇風俗等で働く必要などなかったかもしれないからだ。
 常雄は、自分自身の無頓着さに腹を立てていた。
、だが、常雄が幾ら腹を経てた所で現状は、殆ど何も変らない。
 
 せめて、彼女から、連絡さえあれば、助けられる希望はあった。
 だが常雄の携帯が鳴ることは、一度も無かった……
 ・
 ・
 ・
 どれ位の月日が絶っただろうか、常雄の往き方は大きく変っていた。
 企業相手の金儲けの主義の様な依頼は断るようになり、暴力団相手の訴訟に勤めていた。



 常雄は、昼夜働きまくり、片っ端から暴力団の摘発に人力を注いだ。
 そうしていれば、いつか彼女の手がかり得られると思ったのだろう。
 まるで愛しき人を助けるかの如く常雄は、その仕事に力を注いだのであった・・・

 そしてその過程で、ついに彼女へと繋がる手がかりを見つけた。
 

~刑務所の中で、ある囚人と2人きり~


 囚人は、暴行、窃盗、覚せい剤、等、あらゆる犯罪を犯していた。
 私は今回、この暴力団関係者の囚人から情報を聞き出そうとしてたのだが、相手にされない。
 囚人は、ただ、のらりくらりと、話題を摩り替えるだけであり、一向に目的とした情報は得られなかった。

 囚人は、暴力団とは全く関係の無い思い出話に花を咲かせて酔っていた。
 「俺は、結構、モテてたんだぜ~~!」
 囚人は、麻薬の禁断症状があるのか、視線が定まっていない。
 言葉選びも論理的な思考をしていなく、ブツブツ独り事を喋っている様な感じである。
 だが、囚人の発したある言葉に、私は硬直したのである。
 その言葉の中に、失踪した彼女を連想させるワードがいくつも入っていたのだ。
 そして確信を持ったのは、この囚人の顔だった。
 丸刈りで、一見すると、判らなかったが、私の顔にソックリであったのだ。
 
 彼女が私を恋人と勘違いして刺してしまった事実・・・
 そして、囚人が発するこの言葉・・・
 それらを考慮すると、この囚人が、彼女の恋人であったのは明らかだった。

 「あの女は、俺にぞっこんだったから、いいなりだった。
  紹介した風俗店で俺の為にしっかりと稼いでくれた。
  いいヒモだったんだが、一体どこに逃げたんだろうな。
  惜しい事をしたなーーーーー」

 彼女の苦しみが、私に流れ込んできた。
 彼女は、最後まで、この腐りきった男を愛そうとしていた。。
 無理やり働かされ、追い詰められ、心中まで図ろうとした。

 殴ってやりたい。殺してやりたい。
 けど奴は、壁の向こう……
 私は怒りをこらえるのに必死だった。

 その日から、私は、自分の顔が嫌いになった。
 鏡で自分の顔を見ると、激しい憎悪にとりつかれ、気が変になりそうだった。

 そんな時、テレビで、ある小説家を見た。
 その小説家は、バレエティー番組で話をしていた。
 その話の内容に私は共感した。
 彼は、私と同じ信念の持ち主であり、私以上に強い信念を持っていた。
 私は、彼の虜になり、この忌まわしい自分の顔を整形して彼とソックリに作り変えた

 それからの私は、今以上に仕事を懸命にやった。
 いつか、彼女が助かる日を信じて……
作品名:同じシナリオ 作家名:西中