同じシナリオ
本文
スーツを着こなした男、年齢は20代後半。この男の職業は弁護士。若くしてその才が世間に評価され同期を押しのけて独立を果たす。表面上、この男は、日の打ち所のない完璧人間であるのだが、一つだけ、世間にひた隠しにしている事がある。それは―――
・
・
・
ぴるるるるるる
「はい。もしもし、常雄弁護事務所です」
常雄は仕事の打ち合わせについての電話を受けている。
「では、これから御社に伺いますので・・・」
常雄は、裁判に似向けての訴訟の打ち合せの約束を取り交わした。
この裁判の内容は、企業の知的財産権の侵害を受けている企業を常雄が弁護すものである。常雄が引き受けているこの案件は、今、世界中で問題となっているマイクソフトWINDOWというコンピュータのOSシステムの事である。このWINDOWは、世界中のコンピュータ市場を独占しているソフトフェアであり、独占禁止法にも該当されて話題を呼んでいる。そのWINDOWというOSのシステムを開発したマイクソフトがアッポロ社の技術を使用して作ったとされ、アッポロ社から訴訟を受けているのである。常雄は、アッポロ社から弁護の依頼を受けたのだった。
この裁判は、世界中が注目している。裁判の結果次第でソフトウェア産業の業界が一変する。
この世界中が注目する裁判の依頼が、なぜ、経験の浅い若い常雄の元に舞い込んできたかであるが、それはひとえに常雄の才能にある。
弁護においての常雄の強みは、その弁護力にあるというよりも、洗脳力にあるといえる。常雄は敵の弱点を付いて裁判を争う気力を萎えさせる事で、裁判そのものでの法律的主張で勝たないのである。常雄は、あくまで勝てる弁護士ではない。負けない戦い方を知っている弁護士であり、法律的な知識も一般的な弁護士と同じ程度である。
実のところ常雄は、マイクソフトとアッポロの戦いを法律で解決するツモリは全く無い。
常雄の持論によると裁判とは、金のあり体力のある企業が勝てると相場が決まっているらしい。裁判をする者は裁判費用が掛かってしまう。裁判費用には証拠物件を調査したり裁判所に提出する。特に、それが組織的な企業になる程に、膨大な数の情報と人間が関わってるケースが殆どで武器となる証拠が永遠で出続ける。
とにかく争うだけで相当費用が掛かる。資金的に体力の無い企業は、争うだけで倒産して自滅してしまう。殆どの弱者企業は、自滅する事を恐れて争いすらしないのが常識である。
アッポロ社とマイクソフト社の資産比率は1:100程開きがあり、本来はアッポロ社がマイクソフトに勝てる見込みは0
だが常雄は勝てる戦略を持っている―――
☆
「おい右腕! そこの書類とって!」
「あいよ~」
右腕と呼ばれた男は、軽い感じのノリで常雄に書類を渡す。
この男の本名は、佐藤大輔。右腕という名前ではない。右腕という名は、常雄が勝手につけたあだ名である。その名の通り常雄の右腕の様に役に立つからという単純な理由で、その名が付けられた。
そしてこの右腕という名は 常雄の本名である。
本名「常雄右腕」
この、おかしな名前で、常雄は今までに沢山の苦労をしてきた。子供の頃は、話題のネタにされ虐められ。初対面の人には当然の様に笑われた。「常雄」という難しい漢字だけでも常雄は、人から苗字で呼ばれる事が無いので、いつも「右腕」と呼ばれていた。だから、常雄は右腕という名が、子供の頃は大嫌いだった。だが、大人に成るにしたがって右腕という名が好きになったのである。
仕事上の付き合いでは、初対面の相手に確実に自分の事を覚えてもらえる。そして右腕という名のせいで引き起こされた悲惨な人生を語る事で同情や共感を得て、いとも感単に人と内解けられるからである。
弁護士という仕事上、依頼人との信頼関係は最も重要であり、「常雄右腕」という名は、弁護士の仕事をする上で天職の様な名前であったのだ。
そんな常雄は、ある日、ビッグな仕事が成功して上機嫌だったのか。あまりの上機嫌ぶりに自分の大好きな右腕という名で相棒を呼ぶようになってしまった。
その相棒も少し変わっている。
彼は弁護士の資格が無い。資格が無いというのに弁護士面をしているのである。
彼の存在は、事務所のお飾り。事務所に一人しか弁護士が居ないのでは、社会的な信用に欠けるという理由で、常雄が彼に弁護士の演技をさせているのだ
彼もまた、なぜか、演技をする事に楽しみを覚えていて、生きがいとしている。もちろん彼の役割は、あくまで顧客の話を伸ばして右腕に伝えるのがお仕事である。依頼人を退屈させない様な、法律の話題を知ったかぶりする事が彼の真の役目である。
その役目に彼はピッタリであった。
彼は元々小説家志望の売れない作家であった為か、作り話はそれなりに饒舌なのである。彼もまたこのオカシナ仕事を天職としていて、その作り話の合間の暇な時に、常雄の書類整理を手伝っているのだった。
「右腕! 留守を頼む」
「あいよ~」
常雄は、意気揚々と事務所を飛び出して行く。常雄にとっては、今日は大切な日。裁判流れをシナリオ通りに展開にさせる重大な局面であり、一世一代の大仕事である。常雄にとっては、この裁判に勝てば、この弁護業界で不動の地位を得る事も可能であるのだ。
渋谷大通りの人ゴミを進み抜け目的地まであとチョットというところに来て常雄は立ち止まった。
目の前に、見知らぬ美女が居た。
下から上へと・・・常雄は嘗め回す様には見ない。
なぜなら常雄はゲイ。いわゆる同性愛者だからだ。
というわけで、常雄を何事も無く歩き続けるのだが―――
目の前にその美女が立ちふさがる。
「何か用ですか―――」
と、声に出そうとしたその瞬間―――
ブスリ!
なんと常雄に包丁が刺さっているではありませんか!
☆。
ピーポーピーポー
ウーウーウーウー
ガヤガヤガヤ
「なんか外が騒がしいな」
佐藤大輔(あだ名、右腕)は呟く。
右腕は、余りの外のやかましさにイライラを募らせ外へ飛び出す。
外には沢山の人だかり。何事かとその人ゴミの中を分け入り―――
「常雄!?」
右腕は、常雄に駆け寄り事の状況を把握しようとする。
「どうしたんだ? 何でこんなことに?」
常雄のわき腹から出血し、その傍らには警察に手錠を架けられた女が一人、顔を真っ青にして蹲っている。その女の手には、赤く染まった包丁があり、明らかに女が常雄を刺したという事が判る。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめん―――」
女は、執拗に常雄に向かって謝っていた。
「貴方は、この方の知り合いですか?」
救急隊は尋ねる。
「はい!」
「じゃあ、とにかく乗って!」
救急隊は、強引に右腕を救急車へと乗ようとする。
「あの女の方は一体?」
と、尋ねるが、現場の救急隊は答えられる状態ではなく、その問いは無視される。
一刻も早く常雄を病院に搬送しなればならない状況であるらしく、右腕は、いぶかしげに車内に乗り込み発進を待った。
スーツを着こなした男、年齢は20代後半。この男の職業は弁護士。若くしてその才が世間に評価され同期を押しのけて独立を果たす。表面上、この男は、日の打ち所のない完璧人間であるのだが、一つだけ、世間にひた隠しにしている事がある。それは―――
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ぴるるるるるる
「はい。もしもし、常雄弁護事務所です」
常雄は仕事の打ち合わせについての電話を受けている。
「では、これから御社に伺いますので・・・」
常雄は、裁判に似向けての訴訟の打ち合せの約束を取り交わした。
この裁判の内容は、企業の知的財産権の侵害を受けている企業を常雄が弁護すものである。常雄が引き受けているこの案件は、今、世界中で問題となっているマイクソフトWINDOWというコンピュータのOSシステムの事である。このWINDOWは、世界中のコンピュータ市場を独占しているソフトフェアであり、独占禁止法にも該当されて話題を呼んでいる。そのWINDOWというOSのシステムを開発したマイクソフトがアッポロ社の技術を使用して作ったとされ、アッポロ社から訴訟を受けているのである。常雄は、アッポロ社から弁護の依頼を受けたのだった。
この裁判は、世界中が注目している。裁判の結果次第でソフトウェア産業の業界が一変する。
この世界中が注目する裁判の依頼が、なぜ、経験の浅い若い常雄の元に舞い込んできたかであるが、それはひとえに常雄の才能にある。
弁護においての常雄の強みは、その弁護力にあるというよりも、洗脳力にあるといえる。常雄は敵の弱点を付いて裁判を争う気力を萎えさせる事で、裁判そのものでの法律的主張で勝たないのである。常雄は、あくまで勝てる弁護士ではない。負けない戦い方を知っている弁護士であり、法律的な知識も一般的な弁護士と同じ程度である。
実のところ常雄は、マイクソフトとアッポロの戦いを法律で解決するツモリは全く無い。
常雄の持論によると裁判とは、金のあり体力のある企業が勝てると相場が決まっているらしい。裁判をする者は裁判費用が掛かってしまう。裁判費用には証拠物件を調査したり裁判所に提出する。特に、それが組織的な企業になる程に、膨大な数の情報と人間が関わってるケースが殆どで武器となる証拠が永遠で出続ける。
とにかく争うだけで相当費用が掛かる。資金的に体力の無い企業は、争うだけで倒産して自滅してしまう。殆どの弱者企業は、自滅する事を恐れて争いすらしないのが常識である。
アッポロ社とマイクソフト社の資産比率は1:100程開きがあり、本来はアッポロ社がマイクソフトに勝てる見込みは0
だが常雄は勝てる戦略を持っている―――
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「おい右腕! そこの書類とって!」
「あいよ~」
右腕と呼ばれた男は、軽い感じのノリで常雄に書類を渡す。
この男の本名は、佐藤大輔。右腕という名前ではない。右腕という名は、常雄が勝手につけたあだ名である。その名の通り常雄の右腕の様に役に立つからという単純な理由で、その名が付けられた。
そしてこの右腕という名は 常雄の本名である。
本名「常雄右腕」
この、おかしな名前で、常雄は今までに沢山の苦労をしてきた。子供の頃は、話題のネタにされ虐められ。初対面の人には当然の様に笑われた。「常雄」という難しい漢字だけでも常雄は、人から苗字で呼ばれる事が無いので、いつも「右腕」と呼ばれていた。だから、常雄は右腕という名が、子供の頃は大嫌いだった。だが、大人に成るにしたがって右腕という名が好きになったのである。
仕事上の付き合いでは、初対面の相手に確実に自分の事を覚えてもらえる。そして右腕という名のせいで引き起こされた悲惨な人生を語る事で同情や共感を得て、いとも感単に人と内解けられるからである。
弁護士という仕事上、依頼人との信頼関係は最も重要であり、「常雄右腕」という名は、弁護士の仕事をする上で天職の様な名前であったのだ。
そんな常雄は、ある日、ビッグな仕事が成功して上機嫌だったのか。あまりの上機嫌ぶりに自分の大好きな右腕という名で相棒を呼ぶようになってしまった。
その相棒も少し変わっている。
彼は弁護士の資格が無い。資格が無いというのに弁護士面をしているのである。
彼の存在は、事務所のお飾り。事務所に一人しか弁護士が居ないのでは、社会的な信用に欠けるという理由で、常雄が彼に弁護士の演技をさせているのだ
彼もまた、なぜか、演技をする事に楽しみを覚えていて、生きがいとしている。もちろん彼の役割は、あくまで顧客の話を伸ばして右腕に伝えるのがお仕事である。依頼人を退屈させない様な、法律の話題を知ったかぶりする事が彼の真の役目である。
その役目に彼はピッタリであった。
彼は元々小説家志望の売れない作家であった為か、作り話はそれなりに饒舌なのである。彼もまたこのオカシナ仕事を天職としていて、その作り話の合間の暇な時に、常雄の書類整理を手伝っているのだった。
「右腕! 留守を頼む」
「あいよ~」
常雄は、意気揚々と事務所を飛び出して行く。常雄にとっては、今日は大切な日。裁判流れをシナリオ通りに展開にさせる重大な局面であり、一世一代の大仕事である。常雄にとっては、この裁判に勝てば、この弁護業界で不動の地位を得る事も可能であるのだ。
渋谷大通りの人ゴミを進み抜け目的地まであとチョットというところに来て常雄は立ち止まった。
目の前に、見知らぬ美女が居た。
下から上へと・・・常雄は嘗め回す様には見ない。
なぜなら常雄はゲイ。いわゆる同性愛者だからだ。
というわけで、常雄を何事も無く歩き続けるのだが―――
目の前にその美女が立ちふさがる。
「何か用ですか―――」
と、声に出そうとしたその瞬間―――
ブスリ!
なんと常雄に包丁が刺さっているではありませんか!
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ピーポーピーポー
ウーウーウーウー
ガヤガヤガヤ
「なんか外が騒がしいな」
佐藤大輔(あだ名、右腕)は呟く。
右腕は、余りの外のやかましさにイライラを募らせ外へ飛び出す。
外には沢山の人だかり。何事かとその人ゴミの中を分け入り―――
「常雄!?」
右腕は、常雄に駆け寄り事の状況を把握しようとする。
「どうしたんだ? 何でこんなことに?」
常雄のわき腹から出血し、その傍らには警察に手錠を架けられた女が一人、顔を真っ青にして蹲っている。その女の手には、赤く染まった包丁があり、明らかに女が常雄を刺したという事が判る。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめん―――」
女は、執拗に常雄に向かって謝っていた。
「貴方は、この方の知り合いですか?」
救急隊は尋ねる。
「はい!」
「じゃあ、とにかく乗って!」
救急隊は、強引に右腕を救急車へと乗ようとする。
「あの女の方は一体?」
と、尋ねるが、現場の救急隊は答えられる状態ではなく、その問いは無視される。
一刻も早く常雄を病院に搬送しなればならない状況であるらしく、右腕は、いぶかしげに車内に乗り込み発進を待った。