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ベランダの夜

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「ああっ、和也、素敵よ! ああっ」
「奥さんっ!」
「嫌っ、ベッドの中ではミキ子って呼んで!」
「ミキ子! ミキ子!」
「和也! あたし逝っちゃう~」
「何度でも逝かせてやるよっ」
「だめ~、一緒じゃなきゃイヤっ! 和也も来て、来て! あ~」

 のっけから卑猥で申し訳ない……でも嫌いじゃないだろw?
 俺の名は和也、ホストをやってる、和也は源氏名さ、本名? そんなのどうでもいいじゃないか、田舎くさいからあんまり言いたくないんだ。
 まったく、何であんな田舎に生まれついちまったんだろうな、都会に生まれてりゃジャ○ーズ事務所がスカウトに来ただろってイケメンなのに。
 まあ、高校までは田舎で育ったさ、他にどうしようもないもんな、でもさ、やっぱり都会に生まれ育った奴に負けたくないじゃん、高校を卒業すると、服飾系専門学校に入学するって言って都会に出たのさ。
 親? 反対だったよ、家業の農家を継げってさ……やなこった、一番やりたくないことだったね、この俺に土の臭いなんか似合わねぇよ、俺は都会に出てその香りを身につけ、自分のルックスに磨きをかけたかったのさ。
 生活費? 自分で稼いだよ、偉いだろ?
 でもそんなに苦労してないぜ、俺の美貌をもってすればホストクラブじゃ引く手あまた……でもなかったんだな、実際は、まったく見る目のない奴ばっかりさ。
 まあ、でも郊外のちっこいホストクラブでなんとか仕事にありついたよ、専門学校? 学費なんか払えるわけないだろう? 都会のど真ん中のでっかいクラブで売れっ子にならないと……すぐにでもなれると思ってたんだけどな。
 まあ、それから5年間、地道に働いて……ホストで稼ぐなんて地道とは言えない? どうしてだよ、職業に貴銭はないって学校でも教わったぜ、え? それじゃ「きぜに」だって? 貴賎が正しい? いいじゃん、そんなめんどくせぇことは、世のため人のためになる仕事で稼いだ金も、有閑マダムをダマして稼いだ金も額面は一緒だってことさ。
 まあ、俺は努力の甲斐あって去年からはちょっとは知られたホストクラブに移れたんだ。
 
 で、俺の腹の下にいるミキ子だ。
 アラフィフだって自分で言ってるくらいだから、実際それくらいなんだろ。
 だけど確かにアラフィフには見えないぜ、ミキ子も自分でそうバラしといて『へ~、全然そんな風に見えませんよ』と持ち上げられたいみたいでさ……若づくりにはかなり金もつぎ込んでるんだろうけどね。
 まあ、実際の所、アラフォーかもうちょっと下くらいには見えるよ、もちろん口に出す時は『アラサー位に見えますよ』って言うんだけどね、ハハハ、5年もやってると、もうその辺は脳みそから口に言葉が降りて来る途中で自動変換出来るようになるんだよ。
 ミキ子は良い客なんだ、って言うか、俺にとっては絶対に逃したくない特上の客、旦那が金持ちみたいでね、なんか大地主らしいよ、自分の畑の真ん中に高速道路のICが出来たとかでさ、それだけでも相当な金になったんだろうけど、更に周りに残った土地を観光農園にしてそっちもバカ当りしてるらしい。
 ミキ子は旦那のことなんかATM位にしか思ってないね、ホストにはすぐわかるんだ、だってそういうのは一番のカモだからね、しかも旦那はハンパなく金持ってるらしいから、ミキ子はカモネギーってやつさ……え? 正しくは鴨葱っての? ハハハ、ずっと英語かと思ってたよ、だってニューヨークかどっかにカモネギー・ホールってあるじゃん、カモネギーって大金持ちだったんだろ? え? それも違ってる? まぁどうでもいいだろ? それくらい。
 それにしても、ミキ子の胸って仰向けになっても全然つぶれねぇの、なんか入れてるのバレバレだね、でもそんなこと気にしないぜ、俺だってプチ整形くらいしてるからね、ミキ子は金持ちの旦那を捕まえるための、俺はミキ子みたいな上客を捕まえるための努力さ、そんなのは。
 
 ミキ子の旦那はさ、月のうち半分位は地元に帰って仕事してるらしい、だから俺がこのマンション……世間じゃ億ションって言われてる、でっかくて豪華なマンションの一室でミキ子の欲求を満たしてやるのも、なにも今夜が初めてじゃない、ってか、何回目かも忘れちまったくらいさ。
 だって、せっかくのカモネギーを逃したくないし、その都度チップも貰えるしね。
 
 その夜も旦那は地元で、帰りは次の日のはずだったのさ。
 ところが……。

「ピンポ~ン」
「もう! 誰かしら、こんな夜中に、せっかく良いところなのに」
「ピンポ~ン ピンポ~ン ピポピポピンポ~ン」
「ほっとけよ、そのうち諦めるだろ」
「そうね」
「ピンポ~ン おい、ミキ子、もう寝てるのか? ワシだワシだ、開けてくれ」
「えっ?」
「やべっ!」
 旦那が予定より早く帰ってきちまったんだ。

 後から考えてみれば、寝てて気付かなかったことにすりゃ良かったんだよな、そうすりゃちっとは時間も稼げたんだ、だけどミキ子も動転してたんだろうな……慌ててインターホンに出ちまったんだ。
「ごめんなさい、あなた、今開けます」

 しかもだよ、それって普通はエントランスホールのインターホンからだと思うじゃん、だけど旦那が押したインターホンはこの部屋の玄関のだったんだよ、なんか未だにその辺の仕組みはよく理解してないらしいや。
 で、ミキ子がオートロックを解除すると、いきなり玄関が開く音がしたんだ。

「和也、ベランダから逃げて!」
 ドン!
「え?……あ……」
 ピシャッ!

 確かに時間はなかったよ、だけど2月だぜ、外は寒いよ、いきなり押し出す事はないじゃん、しかもここは10階だぜ、どうやって逃げろってんだよ。
 それにさ……せめて服を一緒にベランダに出して欲しかったよ、ベッドの下に蹴り込むんじゃなくてさ。

「どうした? 遅かったじゃないか」
「ごめんなさい、うとうとしてたの、あなたこそお帰りは明日だったんじゃなくって?」
「そのつもりだったんだけどな、仕事が少し早く片付いたらお前の肌が恋しくなってなぁ」
「まあ、嬉しいこと……」
「良い子にしてたか? ワシの子猫ちゃん」

 はいはい、『子猫ちゃん』ね……『知らぬがアミダ』だよな、え? また違う? 『知らぬが仏』? アミダ様も仏だろ?……まあ、お帰りのキスでもなんでもして時間を稼いでくれよ、その隙に洋服だけでも……。
 え?……ガラス戸が開かない……。
 クレセントが上がってて、ご丁寧に二重ロックまでかけて、カーテンまできっちり閉めてありやがんの……そんなヒマがありゃ服くらい出せただろうに……。
 俺がその時どんな格好だったかわかるだろう? ベッドで励んでる最中だったんだからさ……2月の夜、しかも10階のベランダだぜ? 北風が強いのって言ったらもう……まったく縮み上がっちまうよ、いや、どこがってことじゃなくて全身がね。
 
(しょうがない、旦那が風呂にでも入りゃその隙に逃がしてくれるだろう……)

 そう思って膝を抱えて、なるたけ丸くなってたよ。
 ところが待てど暮らせどそんな気配はない……飯でも食ってんのかな……。
 俺はガラスに耳をくっつけて……すげえ冷たかったけどさ……中の様子を覗った。
作品名:ベランダの夜 作家名:ST