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海だ! ライダー!(前・後編)(われらの! ライダー!)

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1. 前編



(前編)

 その日、ライダーチームは晴子の施設の子供達と楽しい時間を過ごしていた。
 以前、東京ディズニーランドにショッカーが現れた時に、ゲストに一人のけが人を出すことなく撃退した……もっとも、施設は少し壊してしまったが……ことに深く感謝した経営側は、クリスマスプレゼントとして子供達を東京ディズニーランドに招待してくれたのだが、今度は東京ディズニーシーへと招待してくれたのだ。
 遊園地に連れて行ってくれる親がなく、経済的にも恵まれていない子供達には夢のような時間だ。

「わぁ、ロマンチック……ねえ、お姉さんはヴェネツィア行ったことあるの?」
「ううん、ないのよ、いつか行ってみたいわ」
「あたしも! でも、ディズニーシーのゴンドラも素敵」
「そうね、本当に行ったような気持ちになれるわね」

 レディ9こと志のぶは、比較的年上の女の子達と『ヴェネツィアン・ゴンドラ』を楽しんでいた。
 両側にヴェネツィアの街を再現した水路をゆっくりと進むゴンドラ、ゴンドリエの櫂さばきも鮮やかに快適な水上のひと時……。
 しかし……。
 陽気なお喋りを続けていた前方のゴンドリエが急に押し黙ったと思うと、櫂を受け金具から外して両手に構えると『覚悟!』と叫び、志のぶめがけて櫂を振り下ろそうとする。
 その動きをいち早く察知した志のぶは、電光石火の速さで席を蹴るとゴンドリエの肘を押さえる。
 一人なら避ければ済むことだが、ゴンドラには子供達もいるのだ。
「く、くそっ!」 
 志のぶの手を払いのけようとするゴンドリエ、しかし、志のぶの当て身が決まるとその場に崩れ落ちた。
 子供達は騒然、もう一人、後方のゴンドリエも狼狽して相棒の名前を呼んでいる。
 その様子を見る限り、自分を襲おうとしたゴンドリエはショッカーが化けていたのではないかと言う疑いは見当違いのようだ……だとしたら……。
(ここで何が起きているの?……もしや、あの男がまた……)


 仮面ライダーマッスルこと納谷剛は、比較的年上の男の子たちと一緒に『インディ・ジョーンズ』のジープ型ライドの上。
 インディ・ジョーンズの冒険を追体験するアトラクションのラスト近く、クライマックスはジープに向かって巨大な岩が転がって来るシーン、もちろんジープは逃げ切るはずなのだが……。
「変だよ、あの岩、いつもより小さいし速い!」
 最近親を亡くして施設にやって来ていて、このアトラクションは良く知っていると話していた子が叫ぶ、剛は初めて乗るが確かに真に迫りすぎていると感じていた。
(ショッカーかっ!?)
 剛はジープから飛び降りざまにマッスルに変身すると、転がって来る岩と対峙した。
「マッスル! 危ない!」
「心配ない、任せとけ! うおおおおおおおおおおおおおっ!」
 マッスルは岩をがっちりと受け止める、勢いに押されてずるずると後退させられるが、緊急停止したジープに足がかかると全身の力を振り絞って岩を止め、コースの外へと押し出した。
「お客様! 大丈夫で……え? あなたは……」
 狼狽するキャスト、その様子に違和感はない。
(こんな真似をするのはショッカー以外には考えにくいが、一体どうやって……?)
 マッスルの脳裏に、以前苦しめられた男の姿が浮かぶ。
(奴は道力を失った筈だが……)

 ライダーマンこと結城丈二は、比較的年少の男の子たちとメディテレーニアン・ハーバーに浮かぶ船の水上ショーを楽しんでいた。
 船からは放水銃でいくつもの水のアーチが描かれ、船上ではミッキーたちが愛嬌を振りまく、そんなファミリームードが溢れる中、丈二は不穏な動きを見せるプルートに目を止めた。
(あの放水銃は異質だ……どうやら元から備え付けられている物ではないな、そしてあのプルートの動きもショーの一部とは考えにくい)
 丈二の疑念は的中した、プルートはいきなりゲストに向けて放水銃を発射、しかもその水勢は尋常ではない。
「危ない!」
 危機一髪、丈二がゲストを抱きかかえて地面に転がると、水が命中した部分の舗装がえぐれている。
(さては、ショッカー!)
 丈二はライダーマンに変身すると、右腕にバズーカタイプのアタッチメントアームを装着し、プルートが操作する放水銃に狙いを定める。
 船上ではプルートの乱心に気付いたミッキーたちが彼を止めようとしているが、プルートはそれを振り払ってニ発目を発射しようと構える。
(今だ!)
 ライダーマンはバズーカを発射した。
 弾は軟式野球のボール、狙いは違わず、ゴム製のボールは正に発射しようとした瞬間の放水銃の砲身深くめり込んだ。
「ドカン!」
 行き場を遮られた水は放水銃を破裂させ、プルートは仰向けに倒れた。
 ショーを堪能していたゲストは騒然となり、船上も大わらわ、プルートの着ぐるみからは頭部が吹き飛んだが、どうやらキャストは顔見知りらしい様子、他のキャラクターが倒れているキャストの名前を呼んでいる。
(戦闘員が紛れ込んだのではなかったのか……しかし、だとすると余計に厄介かもしれない……)

 仮面ライダーこと一文時隼人は小さい女の子達と共に『マーメイドラグーン・シアター』のショーを楽しんでいた。
 ワイヤーアクションで吊り下げられたキャストが空中を海中に見立てて、自在に泳ぎまわる様を再現したショーに子供達は大喜び、子供向けとは言え中々に幻想的で隼人も存分に楽しんでいたのだが……。
 ショーのクライマックス、アリエルが『パート・オブ・ユア・ワールド』を歌い、海の生き物たちが舞い踊るシーン、突然、蟹のセバスチャンとヒトデが客席に乱入した、最初はショーの演出かと見ていた観客もその乱暴な様子に異変を感じ取り、逃げ惑い始める。
(さては、ショッカー!)
 隼人はライダーに変身し、蟹のセバスチャンとヒトデを一撃で倒し、空中の魚たちから投げつけられるナイフを叩き落として、出口へと殺到するゲスト達を守る。
 しかし、ナイフも尽きると、魚たちはぐったりとワイヤーにぶら下がっている。
(これは……ショッカーではないのか?)
 その時、アリエルが腰に隠し持っていた小刀を手に、出口に向かって急降下して来た。
(ショッカーでないとしても、このままではゲストが危険だ、許せ!)
 ライダーは全力でジャンプした。
「ライダー・キック!」
 アリエルは腰のバーを支点に数十回回転し、ぐったりとぶら下がった。
(ショッカーが絡んでいるのは間違いないだろうが、彼らは操られていたようだ、そんなことができるとすれば……アシャード・ドゥーマン、奴が復活したと言うことなのか?)

 陰陽師アベノセイコこと安倍晴子は、運河沿いのレストラン、『ミゲルズ・エルドラド・キャンティーナ』で、もうすぐ高校生になって施設から卒業していく二人、知也、純子と共にとメキシコ料理を楽しんでいた。
「あなた達とお別れするのは寂しいけれど、しっかり頑張ってね」
「今まで色々とありがとうございました……」
「泣かないで、新しい門出じゃない」
「晴子さんだって……」
「タコスが辛かっただけよ……」
 しかし、感傷に浸っているヒマはなかった、晴子は背後に邪悪な気を感じた。