紅艶(こうえん)
今となっては僕にはそれしか言えなかった。今後僕も惺子先生の「罪」を背負って行こうと思う。それが僕に出来る事だからだ。
「それで良いのでしょうか? それならば私は一生このことを抱いて弟の冥福を祈りながら暮らして生きて行きます。隆さん……信じて良いのですね……」
そう言うと先生は近寄って、僕をギュッと抱きしめた。顔に胸が当たって実は心地良かった。僕も両の手に力を入れて愛する人を抱きしめた。
「わたしの……わたしのかわいい人……」
惺子先生の甘い声が耳元で囁かれる。
僕は、ここに至り、もしかして、佐伯教授夫婦の子を寿の小父さん夫婦の子にあっせんしたのは、誠明の理事長ではなかったかと思っていた。……確か理事長は医者あがりで、ドクターだったと思い出した。
そこまで考えて、僕は考えるのを止めた。そんなこと突き詰めてどうするつもりなのか? 何の得になるのだろう……今は、惺子先生の腕に抱かれていることの方がよっぽど大事だ。
僕は心地よい感触を味わいながら、この美しい人が僕と血縁が無いことを祈るのだった。だってそうさ、母と僕と父との間には何かある……父は未だ僕に秘密を隠している。それが何かは判らないが、僕と惺子先生に関することだけではないことを祈るのみだった。
了