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霞み桜 【後編】

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 春の風が優しく通り過ぎ、霞み桜の梢がさわさわと揺れる。雪のような細やかな花びらがはらはらと風に乗って流れた。
 どこから見ても幸せそうな若夫婦の姿に、道ゆく人が微笑んで通り過ぎる。
 しかし、父親が腕に抱いて一生懸命にあやすその赤児が彼の実子ではないことを知る者は誰もいなかった。
 

 
(完)


 
 


ピンクサファイア
 宝石言葉―可愛らしさ。貞節な愛を表す。













  
 あとがき

 三ヶ月に渡って書き続けてきた?霞み桜?もこれで完結とあいなります。
 派手さはないですが、私自身はこの作品が大好きでした。殊に第一話のヒロインの結衣。壮絶なその生き方は到底、私には真似できないと共に、大切な人たちを守るために自らを犠牲にすることも厭わなかったその生き方に惹かれました。
 自分自身の作品に惹かれるというのは妙な言い方かもしれませんが、これは作品の完成度とは関係なく、人物だったり作品だったりが好きということです。もちろん、どの作品もすべて大好きなのではありますが―。
 モチベーションの維持など大変なときもありましたが、結衣の真っすぐで凜とした生き方に恥じないように最後まで頑張って描ききりたい、源一郎の身の振り方も納得のいく形で作品を描きたいと思い、人物たちに励まされて完結させることができたと思います。
 拙い作品ですが、最後までご覧いただき、ありがとうございました。
 毎年、この時期に書く?桜小説?、丁度、この作品が今年の桜小説になりそうです。本物の桜が咲くまであと少し、待ち遠しいですね。

東 めぐみ拝
2016/03/18   

  
 

〜終わりに〜

 毎年、この桜咲く春を待ちわびる時期に「本」を創るのも私にとっては一つの行事のようになりました。
 毎度ながら、作品のイメージに合わせて表紙のデザインを考えたり、一生懸命校正したりするのも楽しい作業です。
 丁度、この作品の最終話「妻の秘密」を書き上げた頃、私は現在、活動中の小説サイトをすべて止めました。アカウントや作品はどこも残してはいますが、事実上の退会でした。
 今から一年前のことになります。現在はブログを拠点に小説作品を発表しています。
 多くの方に作品を読んでいただくなら、もちろん小説サイトでの活動が望ましいことは判っていましたが、色々と考えた末の決断でした。この一年間、けしてすべてが順調とはいえませんでしたが、何とか自分の思うようにやってこれたのではないかと思います。
 お話は変わりますが、去年一年間、私は放送大学で「上田秋成の文学」という講義を受講しました。秋成は江戸期に活躍した小説家で、「雨月物語」の作者として有名ですね。「雨月物語」の中に「菊花の約(ちぎり)」という作品があります。
 たまたま知り合った男二人がある一定期間の後に再会を約して別れたものの、片方が致し方のない事情があり、約束の日時に会いにゆくことができませんでした。友との約束を守るため、その男性は自ら命を絶ち、亡霊となってまで友に会いにいった―と、簡単に要約すれば、そういう話です。
 テキストの一文には、このような説明があります。

「菊花の約」は、人を死に導くことさえある、信義の美しさと悲しさを描いた物語である。

 講師の長島弘明先生の言葉です。
 私はこの下りを読んだ時、真っ先に拙作の「霞み桜」を思い出しました。
まさに、私がこの作品で描きたかったテーマに、長島先生が明確な形を言葉にして与えて下さったように感じました。
 私が「霞み桜」で描きたかったのも「信義」でした。
 第一話のヒロイン結衣が生命と引き替えにしてまで守り抜いたもの、守りたいと切に願ったもの。
 それはもちろん、大切な人たちではありましたが、結衣の捨て身の行為の先にあるものこそが、彼女が守ろうとしたものこそが「信義」であったのではないでしょうか。
 まさに、美しくも哀しく、壮絶な結衣の生き方であり最期であったと思います。
 拙い作品ではありますが、そのようなことをわずかなりとも作品から感じ取っていただければ嬉しく思います。
 一つ一つの作品を紡ぎ、こうして「形」にしてゆくことが私の書き手としての足跡となりつつあります。
 今まで結衣のようなタイプのヒロインはあまり私は描いたことがなかったため、この作品は一つの記念、宝物のような存在になりそうです。
 「霞み桜」を書き上げてから一年、漸くこの物語を一つの形にすることができ、ここのところの私のささやかな迷いも晴れ、また一つの道を目指す気力がふつふつと湧いてきました。
 これからも道に迷ったり、くじけそうになったとときは、死をも厭わず自らの信義をしっかりと守り抜いて亡くなった結衣の真っすぐ筋の通った生き方を思い出そうと思います。
 それでは、ここまでご覧いただき、本当にありがとうございました。

 
                    平成二十九年三月吉日     
作品名:霞み桜 【後編】 作家名:東 めぐみ