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Youthful days

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Youthful days

「ねえ、明日行くんですって?」
「うん」
「もう、トリーバーチのバッグとかつめたの?」
「化粧水はオルビスそれともアルビオン?」
「クリスタル・ルブタンのハイヒールを履いてくの?」
「列車では履かない」
「マルセイユの街では履くのね?」
「そう、街に着いたら履き替えようと思う」
「うわあ、いいなあ。モンクレールの服なんか着ちゃってさあ、マルセイユの街を歩くんでしょ。何だか私までワクワクしてきた」
「ねえ、ママ、私もいつかマルセイユの街に行きたい。ねえ、だめ?だめ?ママ」
「私は仕事で行くのよ。マルセイユの街に。それもハウスキーパー。お洒落なモデルさんとかが、街に出るのとはわけが違うのよ」
 そう言いながらも、その晩興奮が冷めないまま夜が更けていった。
 そうシャルロットはハウスキーパーとして街に出るのだ。
 翌朝、シャルロットはみんなに別れを告げ、母親と父親にハグをし、列車に乗った。友達もみんなシャルロットを見送ってくれる。皆に名残惜しまれながら、シャルロットは列車に乗り旅立った。
 アルザス地方の小さな村が遠ざかっていく。一晩寝台車に揺られ、大きな街マルセイユに向かった。
 長旅の疲れも癒えないまま、シャルロットは街をさまよった。地図をあてに、居候する家を捜した。歩けど、歩けど、人ばかり。アルザス地方の村ではなかった光景だ。
 やっと家を捜しあて、呼び鈴を鳴らす。
「はい、どなた?」
「シャルロットです。ハウスキーパーのお仕事の」
 そこに現れたのは初老の婦人だった。
「あなたがシャルロットさん?へえ、随分美人だね。どうぞ、お上がり」
「失礼します」
「私はマリー。マルセイユは初めて?」
「はい」
「あなた美人だから気を付けて。マルセイユの男があなたを放っておかないよ」
 シャルロットはまごついた。
「仕事は、簡単な料理と掃除と、庭の手入れ。すぐ慣れるわ。料理はゆっくり覚えてくれればいい」
 大きな街だと不安だらけだったがやさしい人の家に来てよかった。シャルロットは思った。
 次の日からシャルロットのハウスキーパーとしての仕事が始まった。料理はじゃが芋を蒸かすことから始まった。それ以外は毎日この大きなお屋敷の掃除。一週間もしてシャルロットはこの家に、そしてこの仕事に慣れていった。
 ある日、外の落ち葉を掃いて玄関の外にいたときだった。
「君、名前なんていうの?」
 一人の若い男がシャルロットに声をかける。
「わ、私シャルロット」
「見かけない顔だね。ここに住んでるの?」
「ここのハウスキーパー」
 もじもじして語尾はほとんど消えていた。
「田舎どこからきてるの?」
「アルザス地方の小さな村」
 声が小さくなってるのが自分でもわかる。
「そう、そこの角のパン屋あるだろ。ヨークベーカリーって。あそこは人が並んでるうえ、大して美味しくない。でもね。その角を右に曲がってひたすら郊外の方へ向かって歩いて行くんだ。信号もないとこだけど一本道だからね。二マイルもしたとこのミディ・ピレネーってパン屋があんだよ。そこの方がずっと安くて美味しいよ」
「ええ」
「そこのベーカリーのオーナーのダニエルは悪い人じゃないよ。チビのポリーヌの世話をさせたら、彼の右に出るものはないよ。本当愛情深いんだ。ダニエルは刺青をしているけど、そんなこと関係ないよ。チビのポリーヌを抱き上げ、顔をこすり付け合う。ポリーヌったらくすぐったそうな顔をするけど、本当喜んでいるんだ。はっきり分かるよ。ポリーヌはダニエルが好きなんだ」
「私、仕事があるんで」
「お、おい。また会える?」
 シャルロットは自分がみすぼらしく感じ、恥ずかしさのあまり、家の中に入ってしまった。
 次の日休みだったので、シャルロットは昨日の男の子の言ってたベーカリーに向かった。
 ハムエッグサンドとオレンジジュースを買って店を出て歩き出すと、
「やあ、また会えたね」と、声をかけるものがいた。振り向くと昨日の男の子が自転車に乗ってそこにいた。ずっとベーカリーで待ち伏せをしていたのだろう。
「昨日はごめん。女性に名前を名乗らないで声をかけるなんて失礼だよね。僕の名はリュック。今度の日曜日パーティーをやるんだ。是非来てよ。マークの下手くそな手品をやるけど、大目に見てやってね。青魚は大丈夫?」
「ええ」
「よかった。パーティーのチキンはモサモサして、味気ないんだ。ムネ肉を使ってるんだろうね。サバのフライの方が百倍いけるよ。とにかく是非来てね。これ招待状。誰にでも渡してるわけじゃないよ。じゃあ」
 そう言ってリュックは自転車で走り去って行った。
 家に帰って、家主のマリーにパーティーに行っていいか尋ねた。
「パーティー?素敵じゃない?行っておいで。着ていく服はある?そうだ。姪っ子の服、貰ったのがあるから、あなたそれ着て行きなさいよ。いつものあの服じゃせっかくの美人がもったいないわ」
 シャルロットはマリーの勧める服に着替えた。
「ピッタリ。素敵よ。あなた。やっぱりあなた美人ね。もう男から声をかけられたのね。私にも若い頃があったのよ。ウフフ。パーティー楽しんできてね。でもくれぐれもマルセイユの男の子には気を付けてね。みんな狼だから」
 パーティーの当日、シャルロットは招待状と一緒に入っていた地図を見て目的地に向かった。そこあったのは灰色のコンドミニアムだった。
 そこの入り口にリュックがいた。
「やあ、シャルロット、来てくれてありがとう。来なかったらって心配したよ。さあ入って」
 シャルロットは中に入った。薄暗いホールに入るとまず、割と大きい飛行機の模型が、目に入った。
 立ったまま食事をするパーティーに慣れてないシャルロットは静かに一人でサバのフライを食べていた。リュックはいろんな友人に声をかけている。かなり顔が知られているようだ。
 そしてDJの舞台にリュックが立ち、音楽がかかった。しばらくしてリュックがマイクを使って、簡単な挨拶をする。「ようこそ空の友の会のパーティーに。キャプテンのリュックです」
 そう言ってまた音楽が流れる。シャルロットは横にいた男の人に声をかけられた。
「やあ」
「こんにちは」
「リュックの友達?」
「最近知り合ったばかりで」
「そうか」
「あの……」
「何?」
「あのリュックは悪い人ですか?いい人ですか?信じていい人ですか?」
 男は拍子抜けして、
「彼、君を美人とみて、声をかけたな」
 そう言って男はコークを飲んで、言った。
「悪い奴じゃないよ、リュックはあいつのDJのスキルはピカ一だよ。いいサウンドだろ。リュックは四歳のとき、母が亡くなってね。肺炎でさあ。リュックは音楽だけで生きてきたんだ。音楽が心のよりどころなんだ。でもあいつは天才だ。それでぶっ飛んだ奴だよ」
 そしてシャルロットはパーティーが終わると、リュックとまた次の日曜日、会う約束をして、別れた。そして約束の日曜日リュックと待ち合わせ場所で会った。