「歴女先生教えて~」 最終回
「渡辺くん、そこよね。ロシアの極東地域侵略政策に対抗して日本は二つの意見に分かれたの。一つは伊藤博文などが唱えた日露協商論。一つは桂首相と小村外務大臣などが主張した日英同盟論。
明治23年ロシアが北清事変に乗じて満州を実効支配してしまったの。きっかけは清国の宗教的集団の義和団が清国を助け、西洋を滅ぼすというスローガンで決起した事件を日本軍が中心となり戦って、明治24年9月の北京議定書で紛争は解決したけど、この事件の以降支那(中国)に駐留軍が置かれるようになり、日本軍も駐留するようになった。
この時の日本軍の実力と軍紀の正しさにイギリスをはじめヨーロッパ諸国に日本軍ありと印象付けたわけ。
ロシアをけん制する意味でイギリスは日本と同盟を結んでいた。アジアの国家で初めて大国が対等な同盟を結んだ意味は大きかったといえるわ」
「イギリスから望まれて結ばれた同盟関係だったのですね?」
「そうよ、日本が日露協商に傾いていたにもかかわらず、相手からのラブコールに驚き、感動をもって結ばれたと思うわ。そんな蜜月な関係を日本は反故にした。日露戦争の勝利も日英同盟があってこその勝利だったのに、信じられない行為だったわね」
「ルーズベルト大統領の巧みな作戦にイギリスも納得せざるを得なかったのでしょうね。それほどドイツ軍の侵攻に恐れをなしていたのですね?」
「かも知れないわね、渡辺くん。アメリカもヨーロッパ戦線に力を注いでいたから、太平洋方面での新たな戦争は回避したかったと思うの。それはアメリカという国家と国民の総意だったと思う。その考え方が邪魔に思っていたルーズベルトの個人的な作戦に日本は真珠湾攻撃をするという事態に貶められたのね。原因はどうであれ、日本は極力戦争を回避すべきだった。
もし戦うとしたらアメリカではなくアジア地域を植民地にしていたオランダとイギリスに、正義の解放をうたい文句に侵略軍と戦争をすべきだったと思うわ。インドネシアの石油の確保と、そのほかの資源も正当な取引として独立した諸国から買えばいい。思想だけが利用された大東亜共栄圏にもその精神はあったと思うの。
多大な犠牲を払って太平洋戦争は終結したけど、本当の意味で日本は戦争のすべてを語ってこれなかったし、責任も追及できなかった。知らなければならないことは、都合の良い事実ではなく真相よ。罪を認めて罰を受けるのは当たりまえ。偽られたことには声を大にして反論し、自らが犯した戦争責任は日本人の手で裁かなくてはならないって先生は考えるわ」
終業のチャイムが鳴った。
美穂は生徒たちに日本人としての正しい歴史認識を持ってほしいと願っていた。
そして、加藤と高木が卒業して、それぞれ美穂と高橋と正式に結婚し幸せへのスタートを切ろうとしていた。
「歴女先生教えて~」終わり。
予告:次回からは「歴女先生教えて~パート2」として、
世界史の授業を美穂が新任した看護学校で行う物語が始まります。
もちろん女子生徒の家族と恋の悩みに、美穂が答えるという形で恋愛話も書きたいと考えていますよ(^^)/
作品名:「歴女先生教えて~」 最終回 作家名:てっしゅう