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ともだちのうた(後編)

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十四 エピローグ


 最初に感じたのは、痛みだ。
 視覚から直接、にぶい痛みが伝わってくる。
 同時に強烈な色彩をとらえた。
 プリズムで分解したような七色の光線が、渦を巻いて網膜に焼き付く。
 ここはどこだろう?
 ぼんやりとした頭で考える。不思議と恐怖は覚えなかった。
 やがて混沌とした光の洪水が、ゆっくりと像を結んだ。
 白い天井が見えた。
 自分の部屋じゃない。首をめぐらせようとしてギョッとした。鼻に細いチューブが差し込まれているのだ。見ると、左の腕からもチューブが伸びている。チューブの先を目で追うと点滴のパックにつながれていた。そこでようやく自分が病院のベッドで寝かされているのだと気づいた。
 どれくらい長いあいだこうして眠っていたのだろう。からだがひどく重い。四肢がまるで自分のものじゃないみたいだ。
 ふと、ひとの気配を感じてゆっくり視線をめぐらせた。とたん、胸のなかに熱いものがこみ上げてきた。
 ママ……。
 イスにすわって居眠りをするママの姿があった。
「ママっ」
 そう叫んだつもりなのに、喉がコクッと鳴るだけで声が出てこなかった。ダメだ、しゃべることができない。あきらめて、ふたたび病室の天井へ視線を戻した。
 とりあえず、わたしは生きている。そのことにまず安堵した。からだの痛みも、ひりつく喉の感覚だって、みんな生きている証だ。そう考えれば、自分がいまだに病人であることへのあせりも消えてゆく。
 不意に顔のうえを風が撫でていった。雨のにおいが混じる初夏の風だ。吹いてくる方向へ目を向ける。窓がほんの少しだけ開かれていた。
 あれは……。
 窓辺に花が飾られていた。
 白いチューリップと山吹色のガーベラ。
 佐緒里。
 彼女たち三人の顔が浮かんだ。みんな……来てくれたんだ。
 かつて用務員の植村さんは、壁に掘られたアキラメルナという文字を心の支えに病気と闘っていたという。わたしには佐緒里たちがいる。最後まで見捨てずに励ましてくれる友だちがいる。だから、がんばる。
 わたしは負けない。
 生きているかぎり負けたりしない。
 アキラメナイ
 記憶のなかのトムがふにゃっと笑った。
 いざとなったら、こいつもいるしね。
 枕もとでママが身じろぎをした。ハッと息を飲むのが伝わってくる。
「……ふうか?」
 かすれた声がわたしの名を呼んだ。
 そうだよ、風香だよ。
 ゆっくりと首をめぐらし、今できる精一杯の笑顔をママに向けた。
「おはよう、ママ」 
 ちゃんと声に出して言えた。
 自分でもイヤになるくらいの甘えた声だったけど……。



 ともだちのうた~風香 (完)