村上春樹な文体を真似してヤクザ小説を書いてみた。
平井組の元党首、原誠司には子供がいるという話を聞いたことがある。ヤクザが所帯を持ったら家族に危険があるからと、原誠司は一部の幹部にしか家族の話してない。話したと言っても酒の席でうっかり、という程度であり……
「お嬢ちゃん、もしかして原さんとこの子?」
「だれそれ? はらってなーに?」
「お嬢ちゃん、良かったら、知ってること教えてくれないかな?」
「どうしよかな~」
「おじさんち、すぐそこ、だから、お菓子食べながら、お話しようよ」
「ヤった! お菓子だ、わーい!」
~自宅にて~
自宅に幼女を招き入れ、玄関の鍵をかけて、ソファーに座らせた。
お菓子は会合で貰った饅頭くらいしかない。お茶を入れる為に湯を沸かす
「で? どんな話をきいたのかな?」
一応、原誠司に電話をかけてみる。原誠司が偽名で家族を作ってる可能性もあり、原の姓を知らないだけかもしれない。もし原誠司とは関係なく、ただの一般人だとしたら、口を封じなければならないだろう。
「で? お嬢ちゃんはVRの何を知ってるのかな?」
「お嬢ちゃんではないです。ウチはもう小学6年生です」
「そうだね。おじさん失礼だったね。じゃあ、何て呼べばいいのかな? おじさんは、おじさんで良いとしても、君には名前があるんだよね?」
「名前は……」
声が小さくて聞き取れない。
「ごめんね、もう一回名前いいかい?」
「えー」
少女は勿体無いぶる様にしている。
「そんなこと言わないでさ、お菓子はあるからさ」
「わーい!」
「お菓子は饅頭しかないのだけど」
「わーいー!饅頭すきすき」
「で、君のおなまえは?」
少女はしばらく俯いている。まるでこれから答える名前を考えてい様だ。
「メナード!私の名前はメナード!」
最初から騙すつもりなら、お互い様である。名前か嘘だろうと、この際どうでもいい。この少女に何をどこまで見られたのか、その内容次第で、この先のやるべき仕事が増えるのだから。
頭の中で少女の殺害の、段取りを考えていると、原誠司から電話がくる
「もしもし、原だ。なにかあったか?」
「原さん、今うちに小学生の子供が訪ねてきてて、」
「小学生のこども?」
「はい、原さん前に子供いるって言ってたじゃあ、ないですか。」
「ああ、いるぜ、高校生の息子と大学生の娘が」
いよいよ、殺さなければならない。
いまだかつて子供は殺した事はない。ましては暴力さえも。
寺井は軽く目眩がした。頭が真っ白になった。
電話の最中、今の自分が何を話してるのかわからない。
できれば身内で子供であって欲しかった。
そうではあれば、殺さずに口を封じる選択肢もあった。このままこの少女を自宅に返す訳にはいかない。
(自宅に返す訳にはいかない?)
この少女は寺井の自宅前にいた。寺井の自宅の住所を元々知っていて、「やってきた」のだとしたら
寺井の自宅を知っていて、VRを寺井がやってると知っている人は……
非通知の電話が鳴る。出ると鼻息が聞こえてくる。
「ぜえ、ぜえ、はあ、はあ、はあはあ! おい!、ウチの子見んかったか!寺井!」
声の主は本家党首の声だった。
「そっちにウチの子邪魔しとらんか? アイツほんまに勝手に出歩くなって言ってんのに!!」
組長に娘はない。孫が1人いる
「寺井、ちょっとナギに電話代わってくれ」
携帯をナギに貸して、数分の後、組長は言った。
「寺井、悪いがしばらくナギを預かってくれんか?」
「どういうことです?」
「実は嫁さん、ナギの母親の事だが、病気をしていてな、かなり精神が参ってしまっている。ナギがいると八つ当たりしかねないから、預かってくれんか?」
「こちらにはセキュリティの問題もありますし、使用人も居ません、ナギお嬢様を預かるのは不安がありますが…」
寺井は正直預かりたくない。万が一事故でも起こして怪我でもさせてしまったら、と思うと仕事の足も引っ張りかねない。
「まあ、寺井は強いから、頑張ればなんとかなるだろ? それにナギはVR友達を探しててな。組の皆はVRやっとる、言うたら組員の名簿さがして、勝手に家を飛び出すくらいだから。ワガママ言って帰ろうとせんと思うし、一応、人前では偽名を使うように言い聞かせとるけど裏の仕事を知っている訳ではないから…」
要するに会長は、この機会に乗じてナギと組員たちとの親睦を強めておきたいらしい。将来、ナギが跡取りとなった場合に備えて今から、ヤクザ者たちに慣れさておきたい。今はまだ麻薬のビジネスのことは教えずに、仲間意識を育ませておく、将来的に違法ビジネスへの罪悪感を植え付けさせたい。
子供を犯罪に利用するいかにもヤクザな考え方である。所詮はトカゲの尻尾。将来は檻の中かも知れない。
将来なんて今の寺井にとっては関係ない。ただ、殺人という面倒な仕事はしなくて良くなった代わりに、子供のお守りという面倒な仕事が増えただけである。
小便臭いガキ。
寺井には小学生と答えたナギだったが、子供だと思われて舐めらたくないからと、ナギは嘘をついた。本当は園児であり、面倒な年齢だ。
「幼稚園? それってなに??」
ナギは世間と隔絶させて育てたい。ヤクザ色に洗脳したい教育方針なのだろう。学のない状態に追い込めば、あわよくばヤクザを居場所にさせる事ができる。寺井自身もそれは異常な教育方針だと考えたものの、だからといって寺井に正義を貫けるわけがない。あくまで寺井にはヤクザな組織の歯車の1つ、でしかないのだから…
2
「てらい! ゲームしよ!」
小便くさいガキとゲームをすることになった寺井。ゲーム中は睡眠状態になってるから、動き回られる事もない。VRゲームでなら仕事をしながら遊ぶ振りもできるから、できるだけナギのゲーム欲に付き合う事にする。
しかし、常に相手をしている訳にもいかなくて
「すまんマサシ、事務所(パチンコ店)の皆でこの子の面倒を観れるかな」
マサシは寺井が来る前は、平井組での実質ナンバーワンな存在であり、平井組を知り尽くしている。どこにどんな危ない物(拳銃)等があるのかも知り尽くしている。
幼児を麻薬売買の中枢につれてきた寺井。麻薬が置いてあるとはいえ、見た目は小麦粉であり、VRが置いてある部屋は別にある。その部屋だけ使って麻薬な部屋は鍵をかければ大丈夫だと寺井は考えていた。
「会長のお嬢様でしたか! ではこちらにはどうぞ!」
マサシは子供が手馴れているのか、嫌な顔1つせずナギを仕事を場(VRルーム)に連れてき、ナギをおとなくさせた。
「え? 子供慣れしてる理由ですか?」
マサシには昔、惚れた女が保育士をしていて、付き合う為にいろいろと子供好きをアピールしたのだそう。幼稚園に押しかけて子供面倒観たりしていた。、いろいろとあって上手くはいかなかったが、彼女に良く思われたかった為に、子供をあやすのは得意になったのだという。
「オジサンは昔、ゲーム内の大会で上位20に入った事あんだよ〜」
作品名:村上春樹な文体を真似してヤクザ小説を書いてみた。 作家名:西中