Hidden swivel
「何でもないよ、後ろ寒いだろ」
そう言いながら、治美の考える正義を、遠野は自分なりに想像しようとした。
「大島に恨みがあってね。俺とあの女の人で、一年前に殺したんだ。だから、もう心配はいらないよ」
遠野はそう言って、息を呑んだ二人が納得するのを待った。治美が命を張って助けたという事実は、二人には余計に重荷になるだけだ。誰にも言わない限り、それは尊さを失わない。
「あなたは、大島を追ってた刑事なのね」
姫浦は、仰向けになった瓦に言った。瓦は諦めたように、血が流れ出すのに任せた。手遅れになって初めて、警察官を志したころの正義感や、清廉さが頭に蘇っていた。
「全部、聞いたわよ」
姫浦がそう言ったとき、森の中から悲鳴が聞こえてきて、瓦は一瞬注意を向けた。姫浦は、足首の折れている押村が森から出るまでには、この瞬間に鋏でタイラップを切ったとしても、三十分以上かかると踏んだ。全て消し去るには、十分な時間だった。
姫浦は、瓦の顔をじっと見つめ、昔からの友達に話しかけるように言った。
「あなたを見てると思うわ。警官と犯罪者は紙一重だって」
「警官だって、人間なんだよ」
瓦はそう吐き捨てると、覚悟を決めたように銃口と対峙した。姫浦は応じるように引き金を引いた。弾は出ず、空の薬きょうを打ったときの、嘲るような金属音が鳴った。瓦が緊張の糸を解かれて瞬きを繰り返しているのを見た姫浦は、自分の考えを補強するように笑顔を見せた。
「あなたは、びっくりするぐらい大島に似てるわ」
姫浦は、大島に対してやったのと同じように、瓦の体の上にまたがった。
「人間なら、これは痛いかしら」
言い終わると、M13の銃身を瓦の目に近づけ、そのまま体重を乗せて食い込ませた。一年前と同じように、鉄の塊は悲鳴に歩調を合わせて、ゆっくりと目の中へと吸い込まれていった。
作品名:Hidden swivel 作家名:オオサカタロウ