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たらい。。。

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「…何処に、行くの?」

 文月さんに声を掛けられて、水無月さんが立ち止まります。

「─ 河原の芝生広場。」

 水無月さんは、カートを引いて歩いていました。

 大きな たらいが、紐で括りつけられたカートです。

 たらいは、小柄な水無月さんなら、余裕で中に正座が出来そうなものでした。

 カートを凝視する文月さん。

「それ…どうするの?」

「…乗る。魔法で飛ぶ時に。」

 ゆっくりと、水無月さんが身体の向きを変えます。

「何かに乗らないと 飛べない訳じゃないけど、乗った姿勢の方が 収まりが良い」

 カートの引き手から手を離した水無月さんに、文月さんは納得いかない目を向けました。

「そう言う時は…箒じゃ、ないの?」

「跨って…宙に浮くと、柄が…痛い。」

「…絨毯は?」

「座って空中に浮くと…柔らかくて、不安定」

「─」

 沈黙して口を歪める文月さんに、水無月さんは たらいを指し示します。

「色々試した中では…この中に座って、縁を持った姿勢が、1番無難。」

作品名:たらい。。。 作家名:紀之介