桔葉さんのバレンタイン
上映が終わった館内は、徐々に明るくなります。
「は、は…づき、ちゃん…」
固まった姿勢の桔葉さんは、隣のシートに声を掛けました。
声を掛けられて 目を覚ました葉月さんは、大きく伸びをして、上映中 爆睡していた身体をほぐします。
「…終わったんですか?」
「し、信じ…られない…」
「映画を観ないための、自衛行動ですから♪」
何回か またたきをした葉月さんは、桔葉さんの様子を伺いました。
「で、どうでした? 映画」
「み、観なきゃ…よ、良かった。」
葉月さんは ゆっくりと席から立ち上がります。
「お姉さんが…手を引いて あげましょうか?」
伸ばされた腕に、桔葉さんは渋々縋りました。
「素直な桔葉さんって、可愛らしくて良いですね♡」
手を繋いで出口に向かう ふたり。
横を よろめいて歩く桔葉さんに、葉月さんは優しく笑いかけました。
「道野さんのお店で…お菓子、買ってあげますね。」
「…此処ぞとばかりに、過剰に妹扱いするの 止めてくれる?」
作品名:桔葉さんのバレンタイン 作家名:紀之介