桔葉さんのバレンタイン
出た目で…
「…サイコロ?」
リビングのソファで弛緩していた葉月さんは、桔葉さんの掌の上を見ます。
「出た目で…決めるから、行き先。」
「…『サイコロの旅』は、したくありません!」
「『水曜どうでしょう』じゃないから、そんな事させないし」
手の上のサイコロを、桔葉さんは小さく転がしました。
「決めるのは、え・い・が」
「─『シネマハスラー』ですか?」
「別に、葉月ちゃんに、映画評論して欲しい訳じゃ ないから」
縦に並んだ1から6までの数字の横に、何かのタイトルらしきものが書かれた紙を、桔葉さんは見せます。
「明日観に行く映画決めたいから、サイコロを振ってって 言ってるの。」
「…誰と映画に行くんですか? 桔葉さん」
「葉月お姉さまと。」
「─ 初耳ですけど?」
「今、初めて言ったからね」
悪びれる事なく話を進める桔葉さん。
「葉月ちゃんが、明日 空いてるのは、確認済み!」
「─」
「…手を煩わせでたお礼なんだから……付き合ってよ。」
「バレンタインと…ホワイトデーの事ですか?」
「私の懐事情の関係で…」
桔葉さんは、眉間にシワを寄せました。
「間抜けな事に、それが4月になっちゃったけど…」
口ごもって、語尾がハッキリしなくなった桔葉さんに、葉月さんの表情が緩みます。
「─ サイコロ、振らせて頂きますね♡ 」
作品名:桔葉さんのバレンタイン 作家名:紀之介