L K 「SOSの子守唄」
プロローグ
目が覚めると、いつも耳鳴りがする。
体が冷えているわけではないのに、暫くは足を思い通りに動かせない。
喉が渇くのは、眠りに就く前の飲食を、一切制限されているから。誰に急かされるというわけではないので、もう一度ゆっくりと目を瞑り、起き上がる気力が湧くまでは、ゆったりと時間を過ごそう。
船は予定通り航行しているようね。アラームは一切聞こえない。一年ぶりの人工睡眠から解放されて、また一週間のメンテナンス作業に就き、再び一年眠る。
起き上がって一番にすることは、飢えた体へのエネルギー補給と、鈍った体を回復させる軽い運動。この手順も、もう百回以上繰り返してきた。つまり、太陽系を飛び出してから、既に100年以上こうしているわけ。たった一人で。
光速を超えることが出来ない以上、人間は人工睡眠を利用して、外宇宙への旅を続けるしかなかったから。
一度旅立つと、二度と故郷には戻れない。
作品名:L K 「SOSの子守唄」 作家名:亨利(ヘンリー)