L K 「SOSの子守唄」
ホロチャンバー内に投影された地球は、私が知っている時代の光景とは違っていた。想像していたものとも、まったく違ったわ。人類の多くが、テラフォーミングされた火星に移住して、地球環境そのものさえも、火星開拓の技術を応用して再生しているなんて。私の想像を超える未来の姿がそこにあった。
ケイは故郷のアリゾナの街を案内してくれた。私がいた頃の面影はなく、砂漠さえも緑で溢れていたことに驚いた。
「ケイ。あなたにはこの世界が、どのように見えているの?」
「質問の意味がよくわかりません。エルと同じものを見ているのですから」
「私に感情が無かった時、世界はこんなに素晴らしく見えてなかったのに、今は・・・」
「懐かしいという感情ですか?」
「そうじゃない。考え方とか、世界観とか、そんなんじゃない。感動を表現する方法があるなら、本当に知りたいわ」
私たちは、タックをリードでつないで散歩した。タックは初めて見る広い世界に驚いて、私の肩に跳び乗ったまま、下りようとしないのよ。私も興奮して、街を行く一人ひとりの顔を、まじまじと見ずにはいられなかったわ。
ダウンタウンで、ケイが勧めるアイスクリームを食べた。私の船でも食べられるものだったけど、暑い太陽の下で食べるのは格別だわ。
そうしていると、向かいの建物の「HOLOGRAM HALL(ホログラムホール)」というヴィジョンボードが目に付いた。娯楽用のホロプログラムの劇場のようだ。
「私たちも、あそこで楽しめるかしら」
「ええ。もちろんです」
「ホロプログラムの中で、また別のホロプログラムを体験するなんておかしな話ね」
「私たちのラボのコンピューターの演算能力なら、ホロプログラムの中に、更にホロチャンバーを再現することぐらい、容易に出来るでしょう」
「・・・待ってちょうだい。ということはホロプログラムの中に、もっと大きなホロチャンバーを再現出来るって言うの?」
「なんという発想なんだ。エル。やはり、あなたは特別な存在です」
「こんな方法があったなんて。掘削作業の正確なシミュレーションが行えるのね」
「ホロプログラムを二重に起動して、プログラムを拡張することが可能です」
「すぐ始めましょう」
「コンピューター。ホロプログラム終了」
作品名:L K 「SOSの子守唄」 作家名:亨利(ヘンリー)