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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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L K 「SOSの子守唄」

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最終話 記憶



  目が覚めると、いつも耳鳴りがする。
    体が冷えているわけではないのに、暫くは足を思い通りに動かせない。

 エルは目が覚めた。
 また、人工睡眠から開放されたのだと思った彼女は、目を瞑り、暫く呼吸を整えていた。そして彼女は、周囲がとても静かだということに気が付いて、目を開けた。そこは、見たことがない、明るく清潔な部屋の中だった。

 記憶を辿ってみたが、再起動後の脳はシステム最適化に時間がかかり、暫くは状況がつかめずにじっとしていた。その後、体を起こそうとしてみたものの、やはり彼女の体は思うように動かなかった。首を伸ばして、部屋の中を見渡していると、ドアが開いて誰かが入ってくるのが分かった。
「エル!」
その声は、キュウだった。
「キュウ。大丈夫だったの?」
「目が覚めたんだね。よかった!」
キュウはとても嬉しそうに、大きな声で叫んだ。彼は大きく成長していた。
その声を聞いて、また一人、誰かが部屋に入ってきた。
「エル。私が・・・私が分かりますか?」
エルは暫く黙って、彼の顔を見つめた後、
「ケイ、年を取ったわね」
そして、たどたどしく両手を伸ばして、ケイを力いっぱい抱きしめた。

「私一体、どうしたの?」

 ケイは次のように説明した。
「エルの船は、なんとかこのアップルに帰還することが出来ました。あれだけの損壊にもかかわらず、エルは奇跡的に生還出来たのですよ」

「アッシュがブラスターパックを点火する直前、エルは船のスラスターを、無理やり全開で噴射していたでしょう。その時、難破船から移植導入していた“エネルギー防壁”が船体剛性維持のため、自動的に船全体に展開され、爆発から守ってくれたのです。しかし、船内に隠されていたブラスターパックは、エルのすぐ側で爆発しました。キュウはエルに抱きしめられて損傷は少なかったようですが、エルの体は修理不可能なほど破壊され、意識を失くしてしまったそうです」

「その後、キュウがストレージケースにいたジェイを起動して、彼にエルを助けてほしいと泣きながら頼みました。ジェイは船内の惨状を見て状況を把握し、命令に従ってエルを再起動しようとしましたが、目覚めないあなたをそのままの状態で、タックと共に人工睡眠キャスケットで保存してくれました」

「その後、ジェイとキュウは協力して、船のコクピットを難破船から流用した部品で、3ヶ月かけて稼動出来るまでに修復し、エルが持ち帰ると指示していた格納庫モジュールを分離、曳航して、探査船を手動で操縦しながら、彼らはまだ見ぬ惑星アップルを目指したのです」

 そして、エルの船は12年かけて、ようやくこの星に辿り着いていた。

 しかし、エルと15年ぶりに再会したケイは、修理不可能な彼女を見て、大きく落胆した。ジェイもまた帰還前、エルの体を廃棄するべきと考えたが、キュウが懇願したので、ここまで運んだのだった。

「それからというもの、私はエルを再生するために、ありとあらゆる方法をホロチャンバーを駆使してシミュレーションしました。そして回収されていた女性型アンドロイドの体を流用することを思い付き、エルのメカニカルな内部構造の頭部を、SS3200型の生身のボディに移植する改造は、100回以上のホロシミュレーションの末、最良の方法を見付け出しました」
「私のボディを換装したのね」
「ええ。最善の策を取りました」
ケイはエルの両手を手に取った。
「そして今、ようやくあなたは、私のところに帰って来てくれたのです」

 最新の若い体を手に入れたエルは、複雑な心境を語った。
「100年以上稼働している私が、ケイより若返ったなんて、何か変な気がするわ。でも、この肉体は再生可能だし、病気にもかからない、永遠にだって生きられる。ケイは裏切ったアッシュと同じSS3200型なのに、太陽系からの指令を無視することが出来たのね。きっと、感情を持つアンドロイドであれば、自分で正しい判断が出来るのだと思うわ」

 ジェイもまた、司令部の指示には従わなかった。それは、SS3100型がミリタリーモデルという特性上、指揮官の指示にのみ従うという、単純な判断をしたからだった。そして現在の指揮官は、ジェイを起動したキュウなのである。

 セカンドロイドの自我の目覚めは、人類にとって脅威と映った。セカンドロイドとそれを産出するSS3200型アンドロイドは、すべて排斥されようとしていた。人類の歴史を記憶情報として持っている惑星アップルのアンドロイドたちは決意を固め、太陽系とは一切の連絡を絶った。それ以降、彼らは惑星アップルで、新しい世界を創っていくことになる。
 エルとケイはキュウの成長を見て、子供に対しての愛情が芽生えた。自分たちにもエルの新しい体で、生殖が可能だということを理解している。

 人類は未だ、宇宙に自分たち以外の生命体を発見出来ていない。とても孤独な存在である。しかし、太陽系から遥か彼方のこの惑星には、人類も知らぬ新しい歴史が幕を開けることだろう。それは新たな宇宙の記憶として刻まれていく。

「ニャー」
「あら、タックいたの? 元気そうね」
 キュウがタックを抱き上げ、エルの胸元に載せた。
 ケイは、部屋の不透明な窓をクリアにして、外の景色がよく見えるようにした。そこには、ヤギやニワトリが放された緑に包まれた庭と、陽の光をたっぷりと浴びる大きなリンゴの木が見えた。そして、リンゴを収穫しているジェイの姿があった。