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おりん(「星の砂SSコンテスト」落選作)

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 七年前の事件のすぐ後、親分さんはおりんちゃんをあっしのところへ連れて来たんでございますよ、親戚が迎えに来るまで預かってやってくれねぇか、と仰ってね……おりんちゃんがあっしには随分と懐いてくれてることをご存知だったんですな……もっとも、そん時は、こんな痣があることが他人に知れたら可哀想だから、とだけ仰ったんですがね。
 親分さんから事件の本当の所をお聞きした晩、その訳に合点が行きやした……番所でおりんちゃんを預かれば青痣の事も知れちまう、そしたらどうしたって盗人の首の痣と繋がっちまいますからな……あの子が遠くへ行っちまうまで、他人に知られねぇ方が良いにきまってまさぁ。
 それに、あのこの母親についちゃ、ちょいとした噂もございまして……あの辺りの河原には白蛇が棲みついてて、それがあの人が正吉と一緒に暮らし始めてからはとんと姿を見せなくなった……ってね……綺麗な人でしたよ、あんまり綺麗なんで、影じゃ、本当は人じゃねぇんじゃないか、ってなことも言われてた位でしたからな……。
 
 お役人様、おりんちゃんはお咎めを受けることになるんでございましょうか……?
 ―――左様でございますか、それをお聞きしてほっといたしやした……でも、もうお店にはいられないんでございましょうな……。
 ―――へぇ、お役人様が新しい奉公先もお世話して下さると? そいつはありがたいことでごぜぇやす……今度は駿河でご隠居の身の回りのお世話を……ご隠居は事件の事も青痣のこともすっかりご存知の上で?……豪胆なお方でございますなぁ、ありがたいことでございます。

 あっしは所帯を持ちませんでしたから、孫どころか子供もいねぇんで……おりんちゃんと一緒に暮らしたのはほんの十日ばかりだったんでございますが、あん時は、なんだか孫が出来たように嬉しゅうございましてな……あの子が親戚に手を引かれて行っちまう時にゃ……へへ、よしやしょう。
 
 おりんちゃん……久しぶりにその名前を聞きやした。
 あの娘にはどうか穏やかに暮らして居て貰いてぇものでございますよ……」