ZERO
やった! と僕らははしゃぎながら、その美しい小さな命を見て、顔を綻ばせた。その植木鉢にあるのは、あの樹の形見となるものだった。その樹の一部を再び育て続けて、こうして大切に慈しみ、やっとここまで来たのだった。
佐山さんの目が潤んで、僕は喉まで出掛かった言葉を押し留めた。彼女に今ここで好きだと言ったら、どんな顔をするだろうか。でも、もう抑えようがなかったのだ。
「ねえ、佐山さん、僕――」
「時田君、私ね――」
あなたのことが、ずっと好きでした。
佐山さんの口から零れたその澄んだ青の結晶を受け取って、僕は大きく目を見開き、思考が停止してしまう。え……佐山さん、今なんて、――。
「……ずっと、ずっと、好きだった。私は他でもない、あなたのことが好きだったの。あの日、彼女の元に泣きついてきたのは、妹さんと帰っているのを見かけたから。後から知って、顔から火が出るほどに恥ずかしかったわ」
――でもね。
「もう、決めたから。私は時田君のことが好き。この気持ちを伝えたいから」
そう言って彼女は、少し恥ずかしそうに――それでも俯きがちに、僕を見て口元に微笑みを浮かべた。それで僕も、彼女の心を本当に深く感じることができた。ぐっと嬉しさに胸を詰まらせてしまう。
でも、これだけは言わなくちゃいけない。
佐山さん、僕は――。
その言葉をつぶやくと、僕と彼女はあの樹を通して、深く結びついたのだった。その小さな植木鉢で息づく命が、彼の微笑みをもう一度見せて、僕らの小さな芽を開かせた。それはあの樹が残してくれた、最後の奇跡なのだろう。
僕はいつまでも大木の記憶を胸に抱いて、二人並んで生きて行こう、と強く誓った。
これはゼロからのスタートじゃない。彼が残してくれた確かな道のりを、僕らはゆっくり辿って歩いていけばいい。
僕はこの小さな命がやがて大木となり、あの場所に立つことを、純粋な気持ちで願った。
やがて空を突き抜けてどこまでも伸びていき、奇跡を生み出すことができるように……。
僕は彼女と向かい合い、そっと微かに、桜色の微笑みを交わし合った。
了