懺悔
あれだけ今まで復讐を夢に見て、恨みに震えていたのにいざそのような日になると意外にも緊張などはしなかった。
人間とは不思議なものだ。と心底感じた。
約束の場所は千夏と再会し、語り合ったあの喫茶店だ。
後、歩いて5分といったところか。
もう少しだ。と自分に言い聞かせ、1歩ずつ歩を進める。
目的の喫茶店が見えてきた。
その喫茶店にあいつはいた。
神妙な面持ちで前を見つめ、珈琲を飲んでいる。
呑気な野郎だ。今に見てろと心の中で独り言をいい、喫茶店の扉を開けた。
だが、そこで俺の視界がゆらゆらと揺れ始めた。
目眩のようなそう出ないような。
よくわからないものだったが、すぐに俺は視界を元に戻そうとし、そのまま発狂したがら母に向かい突撃した。
母は驚嘆し、言葉を失ったようだ。
俺は母を刺し殺した。
だが、そこで例の頭痛が襲ってきた。
加えて、先程の目眩のようなものも俺を襲い、そのまま気を失いそうになった。
その刹那、誠が俺の視界に現れた。
俺は何故だと思ったが、言葉はでなかった。
そして、誠が言葉を発した。
「俺は本当は存在しないんだ。優也の頭の記憶の中で誤差が起き、そこで俺という架空の人物を作り出したんだよ。思い出してくれ」
そう言って誠は消えた…
エピローグ
俺は最初自分が何処にいるのかわからなかった。
だが、その後視界が徐々にぼやけているものから、はっきりとしたものに変わる中で病室だと理解した。
まず自らの身体を確認した。
確か、母を刺し殺したはずだったが。
俺は自分の体を確認した途端、目を見開き、口は震蕩し、言葉を失った。
小学生の頃の身体に戻っていたからだ。
俺は思わず、叫んでいた。
「あぁぁー!!なんでだ…」
そこ声に驚いたのか、医者がやってきた。
「どうしたんです?!」
「なんで俺が小学生なんだ…」
「なんでって、運ばれてきた時から小学生ですよ。一体何が起こったんですか」
医者は何が何だかわからないという表情をしていたが、一番驚いているのはこの俺だ。
「とりあえず脳内を見てみましょう。何か、記憶に誤差が起きたのかも知れません」
俺は検査を終え、医者の言葉を待った。
「特に問題は無いですが、ノンレム睡眠中に沢山の夢を見ています。通常なら、夢というのはレム睡眠時に見るものなのですが。奇妙です。」
医者はそう語った。
俺はこの状況を整理しようとしたが、頭がうまく働かなかった。長い時間寝ていたせいかもしれない。
「何故俺がここに運ばれたんですか?」
医者は驚いていた。
「それさえ、わからないのですか?あなたは、お母さんに刺され、何箇所も刺されていたため、ある脳死の患者さんの体を移植しました」
俺は言葉を失った。そんなことがあったなんて。
だがしかし、なぜ自分は母に殺られたことを覚えていないのか不思議だった。
また、変な夢を見たのか。
俺は医者に問うことにした。
「名前はなんという方の身体ですか?」
「新羅誠さんという方です。高校3年生の時に母を喫茶店で殺し、そのまま脳死してしまった悲惨な方です」
医者はそう言うととても悲しそうな顔をした。
だが、俺はそれとは逆で驚きを隠せなかった。
新羅誠…誠…誠!!
俺は夢らしきものに出てきた人だと思ったが、何故だと思った。
その時俺は一つの考えが浮かんだ。
もしかして…まさか。
「もしかして脳もその方のものを移植しましたか?」
「はい。無事上手くいったはずです。」
俺はその言葉を聞き、納得した。なるほどと。
つまりこういうことだ。
俺自身が小学生の頃、東京の自宅から、逃げようとしたところを母に目撃されたのだ。
夢の中では成功だったが、その時にはもう俺は母に殺されていて、そこからの記憶は全て、誠さんの記憶なのだ。
つまり、誠さんは山形県出身で、学力もとても良かったはずだ。
あと温厚な祖父母も誠さんの祖父母だったのだ。
きっと、誠さんは母に恨みを持っていて、最後喫茶店で母を殺した。しかし、そこで病に襲われ、脳死してしまったのだ。
誠さんの記憶に誠さん自身が現れたのも、頭痛の原因も、俺の性格が変化したのもすべて脳を移植した影響だと俺は推測した。
千夏も誠さんのガールフレンドだったんだな。
俺はあの温厚な誠さんの分まで生き延びようと決意した…
THE END。