ありふれた恋の物語
俺は泣かないように頑張った。
彼女は俺に泣いて欲しくて腎臓をくれた訳じゃあない。なら、泣いてはいけないんだ。
必死に涙をこらえ、手紙の差出人名を確認する。
僕の涙の堤防を支えているのは、か細い希望だけだった。
手紙には彼女が僕に腎臓をくれたとしか書かれていない。
だとしたら、まだ彼女が余命宣告をされたタイムリミットまでは時間がある。彼女が生きている可能性は十分にある。
俺に残された彼女の手がかりは、便箋に描かれているはずの差出人名だけだった。
ここに書かれている名前をヒントに、彼女に会いに行こうと思った。