ありふれた恋の物語
俺が彼女の特徴を説明すると、医者は意外な事実を告げた。
「あぁ。あの子ですか。あの子ならもうこの病院にはいませんよ」
医者の言葉に俺は少し安堵する。この病院に居ないと言うことはもう手術は終えたのだろう。
「そうだったのですか。あの…彼女が今どこにいるのか分かりませんか?」
「……申し訳ないですが、あの子の希望で身元は開示しないことになっているんです」
「あ…そうなんですか…すいません」
どこかで聞いた話だなと思いながらも俺は引き下がらなかった。
「せめて、彼女の名前だけでも教えていただけませんか?」
結局の話、医者から彼女の名前を聞き出すことはできなかった。
ただ、医者の元から去る際に手紙を渡された。それは、宛名も差出人名も書かれていない封筒に入っていた。
俺はその手紙を持って屋上に向かった。
なぜだか分からないが、そうしなければいけない気がしたからだ。