あの日、俺はヒーローを想うヒロインに恋をした。
球技大会
今日は球技大会だ。俺の高校ではバスケとバレーと卓球でそれぞれトーナメントが開かれ、学年関係なくチームが当たる。俺はバレーで参加するのだが、どうやら河原もバレーで参加するらしい。
(河原のチームと当たるかもしれねぇな……その時は絶対負けねぇ!)
闘志を燃やしていると、同じチームの級友が「波多野」と俺を呼んだ。
「バレーやるのめんどくせぇけど、まあ、てきとうにやろうぜ」
「……てきとうにやる?やるなら目指すは優勝だろうが」
「そういうの暑苦しいから」
級友はふわぁ、と欠伸をする。
他の級友も気だるげな様子で、俺は内心で溜め息をつく。
(まあ、進学校の球技大会はこんなものか)
進学校は勉強に力を入れているから、学校行事よりも勉強の方が大事なのだろう。
「三年生のチームには当たりたくねぇな。あ、でも当たった方がすぐ終われて楽か」
「だな。早く終わって欲しいよな」
「バレーするのは疲れるもんな」
やる気のない級友達の発言に、俺は再度内心で溜め息をついた。
バレーの第一試合は、河原のチームと三年生のチームが当たるらしく、俺はその試合を観戦席で観戦することにした。
(河原はバレーは上手いのか?)
河原の姿を探して、ゴーグルをつけている男――河原を見付ける。
河原は笑顔でクラスメートと何かを話していた。
(……こうして見ると、あいつ、顔はいいよな)
まあ、俺の方が上だけどな。
心の中で張り合っていると、級友が話し掛けてきた。
「三年生のチームに当たるなんて、あのチーム、ついてねぇな」
確かに、身長的にも経験的にも一年生より三年生の方が有利だ。
(河原のチームに当たることはなさそうだな)
そう思っていると、試合開始のブザーが鳴った。
三年生の一人がサーブを打つ。
一年生の一人がレシーブをして、ボールが空に上がる。
「任せろ!」
一年生の一人がボールに手を伸ばしてパスをする。
しかしパスミスをしたようで、ボールはコート外に逸れていく。
「あ、すまな――――」
「うおおおおおお!!!!」
雄叫びと共に、物凄いスピードで一人の一年生――あれは河原だ――が、ボールに突っ込んでいく。
「どりゃあ!!!!」
バチン!!!
河原が叩き付けるようにボールを打つ。
ボールは二人の三年生の間にドスン!!と音を立てて落ち、バウンドしてコートの外に転がった。
「…………」
沈黙が辺りに流れる。
誰もが茫然としている中、我に返った審判がピピーと笛を吹いた。
「うおおおお!!」
遅れて歓声が上がり、どよめきが起こる。
「何だ今の!?人間の動きじゃねぇ!!」
「あいつ一年だろ!?大したもんだぜ!!」
茫然と河原を見ていた俺は、周りの騒ぎに我に返る。
(あいつ……ただの風が大好きなだけな奴じゃなかったんだな)
コートから外れたボールを叩き付けるなんて、相当な運動神経の持ち主だ。
一方的になると思われた試合は、河原の活躍より覆された。
「うおおおおおお!!!!」
バチン!!!
雄叫びを上げながら河原がスパイクを打つ。
ボールは勢いよく進み、誰もいない箇所にドン!!と沈み込む。
「うおーーー!!!」
「すげえぞあの一年!!!」
河原が点を決める度に歓声が上がる。それ程河原のプレーは目を引くものだった。
(河原……)
真剣な、しかし楽しそうな表情を浮かべている河原を見て、俺はごくりと唾を呑み込む。
その後も河原は活躍を続け、試合は河原のチームが勝利した。
興奮が収まらない中、俺はクラスメートに囲まれて笑っている河原を見る。
バレーをしている河原は、正直かっこよかった。
(小糠があいつに惚れるのも、ヒーローだって言うのも分かるな)
コートの中心に立つ河原はまさしくヒーローで、誰よりも輝いていた。
(……俺も、負けられねぇな)
俺は改めて闘志を燃やすのだった。
作品名:あの日、俺はヒーローを想うヒロインに恋をした。 作家名:如月