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あの日、俺はヒーローを想うヒロインに恋をした。

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 文化祭当日、俺は女装した姿で喫茶店に来た客の相手をしていた。
 俺の女装は何故か好評らしく、ふざけた男子生徒に体を触られたこともあった。勿論そんな奴は成敗しておいたが。

「波多野、客が来たわよ!」

「ああ。いらっしゃいま――」

 現れた客に、俺は絶句する。
 客――河原は俺を見てぶふっと吹き出す。

「は、波多野先輩っすよね!?は、ははは!完全に女の子じゃないっすか!!」

 腹を抱えて笑う河原に、俺は河原を殴りたい衝動を抑えて、笑顔を作る。

「いらっしゃいませ、お客様。今案内します」

「ぶふォ、いらっしゃいませって、ひぃ、はらいてえ、!」

 ……お前、笑いすぎだぞ。
 河原を無視してある席を指し示すと、河原はその席に移動して腰を下ろす。

「ご注文はいかがなさいますか?」

「んー、オレンジジュースで」

「かしこまりました」

 オレンジジュースとかガキかよ。そう思いながらジュースを運んでテーブルに置くと、河原はじっと俺を見据えた。

「しかし、よく出来てるっすね。小糠には見せたんすか?」

「いや、あいつには午前中には来るなと言ってある」

「え、勿体無いっすよ。こんなに可愛いのに」

 河原がにやにや笑う。
 こいつ、面白がってるな。
 軽く河原を睨み付けると、河原は笑みを消して真面目な顔になる。

「アンタ、小糠のことが好きなんでしょ?」

「……!」

 目を見開くと、河原は「分かるんすよ」と告げる。

「何で告白しないんすか?好きなら告白した方がいいっすよ」

「…………」

 黙って河原を見つめていると、河原はふっと笑う。

「アンタになら……小糠を……実名子を任せられます。俺の幼馴染みを、幸せにしてやってくれませんか」


「……河原……」

 河原は俺から視線を外し、オレンジジュースに口をつける。

「……だが。小糠は、お前を……」

 その先は言わずに口をつぐむと、河原は笑みを消す。

「知ってますよ、あいつが俺を好きなことくらい。でも……俺では駄目なんです。あいつを本気で好きなのは……アンタでしょ」

 そう告げる河原の表情は苦しげで――悲しげだった。

「…………」

 一途に自分を想い続ける幼馴染みの姿に、こいつは何を思っていたのだろう。
 幼馴染みの傍にいて、幼馴染みを守って。そうしてこいつは、何を――――

「ッ!」

 俺は拳を握りしめて、勢いよく教室を出て、走り出す。
 小糠の姿を探して、小糠の教室で彼女を見付けた俺は、小糠に近付いて彼女の腕を掴む。

「小糠!!!」

 小糠はびくりと肩を跳ねさせて、目を丸くして俺を見る。

「は、波多野先輩……?」

 俺は小糠を真っ直ぐに見据える。
 ずっと、好きだった。
 あの日出会った時から、ずっと――――

「……好きだ」

「……え?」

「お前が、好きなんだよ!!」

 小糠は大きく目を見開く。

「…………え……え、えええ??」

 小糠の顔が真っ赤になる。

「……返事は、後でいいから」

 それだけ言って、小糠に背を向けて、俺は駆け出した。

(ああああ、ついに言っちまった……!)

 無我夢中で走り、自分がメイド服を着ていることに気が付いて、羞恥から頬が熱を帯びる。

(つい勢いでコクっちまったけど、俺今女装してるじゃねーか、この姿で告白するとか変態か!?)

 誰もいない教室に入り、椅子に座って机に突っ伏す。

(ああ、俺、かっこわりぃ……)

 俺はうう~……と呻いて、頭を抱えるのだった。