Two Pair + One
暖炉に火を入れておく、と言わない所がヴィクトリアのヴィクトリアたる所、それはデヴィッドの仕事と決めているのだ。
「いいのよ」
「デヴィッド、早めに頼むよ」
「ああ、わかってるよ」
二人を乗せたボートは氷の海へ漕ぎ出して行き……1時間ほどかかって、デヴィッドが一人で戻って来た。
「デヴィッド、どんな具合だ? 思ったより時間がかかったけど、漕ぎにくいのか?」
「いや、思ったより楽だよ、ゴムだから少し位流氷にぶつかっても平気だしね、ヴィクトリアなんか却って面白がってたよ、むしろ暖炉に火を入れるのに時間がかかった位さ……次はモニカ、君がソックスを乗せて行ってくれ」
「私が漕ぐしかないわよね、ソックスは私と一緒でないと駄目だから」
「ソックスの犬掻きじゃどれだけ時間がかかるかわからないからな……別荘に着いたら、君とソックスが残ってヴィクトリアに迎えに来るように言ってくれ」
「あら、ヴィクトリアがこっちに戻るの? せっかく別荘に落ち着いてるのに?」
「ははは、僕たちを放り出す気かい? 君かヴィクトリアのどっちかが戻って来てくれないとボートは向こうに行ったままになって僕たちは置いてけぼりだ」
「あ、そうね」
「それに、ヴィクトリアは君なしでソックスと一対一になるのを望まないと思うけどね」
「それもそうね……可哀相だけど、ヴィクトリアに頼むわ」
しばらくしてヴィクトリアがクルーザーに戻って来た。
「ねえ、どうしてあたしがこっちに戻ってこなきゃいけないの? それも自分でボートを漕いでだなんて最っ低っ!……せっかく暖炉にありついてたのに!」
ヴィクトリアは不満たらたら……。
「だって、モニカとソックスを離すわけには行かないだろう? それとも君がソックスと別荘に残ったほうが良かったかい?」
「わかったわよ!」
「まあ、そんなに怒るなよ、今度は僕が君を乗せて行って、今度こそ別荘に落ち着かせてあげるからさ」
デビッドとヴィクトリアを乗せたボートが出て行き、しばらくしてデビッドがクルーザーに戻って来た。
「さあ、次が最後の航海になるな」
「ちょっとしたパズルだったけど、上手く考えたな、デビッド」
「これで問題なしだろう?」
「ああ、モニカたちはどうしてる?」
「あの二人は仲が良いな、ソックスが妬かないか心配な位だよ」
「ははは、ああ見えてソックスは雌なんだよ、英語が喋れればおしゃべりに加わりたいんだろうな、さて、我々も暖かい別荘へ向かうとしようか」
こうして、夫婦以外の男女が、ゴムボート上でも別荘でも二人きりになることなしに、そしてモニカとソックスを引き離すことなしに、無事四人と一頭は別荘にたどり着けた。
昼間釣り上げた魚をデヴィッドが調理して、それを肴に改めてパーティの始まりだ。
ヴィクトリアとモニカは前にも増して仲が良くなったようで、ソファにぴったりと寄り添うように腰掛けておしゃべりが止まらない。
暖炉は赤々と燃え、パーティの盛り上がりは夜更けになっても衰えを見せない。
少し火照りを醒まそうとデヴィッドがテラスに出ると、続いてビルも出てきた。
「なあ、デビッド、考えてみたんだが、最初に君と僕とでボートに乗って、君がクルーザーに戻るって選択肢もあったんじゃないか?」
「ははは、気がついたかい?」
「君がヴィクトリアを別荘に送り届けて、僕がクルーザーに戻り、モニカとソックスが別荘に」
「そう、そして僕が君を迎えに行けば万事OKさ」
「じゃあ、何故?」
「ヴィクトリアにも少し苦労してもらおうかと思ってね、モニカはどうしたって一回は漕がなくちゃならないだろう? ソックスを乗せてさ」
「ふふふ、なるほど、そう言うことか、確かに我々の苦労が少しはわかるかもな……」
「ははは、でも、ヴィクトリアには内緒に頼むよ」
「ふぁぁ……、今朝早かったし、色々あったんで疲れたよ、そろそろお開きにしないか?」
朝早くから車を走らせてきたビルが、心底眠そうに言う。
「そうだな、僕も疲れたよ……それじゃ、ビルとモニカはゲスト用のベッドルームを使ってくれ」
と、デヴィッド。
しかし……。
「「あたしたちは嫌よ」」
思いもかけず、ヴィクトリアとモニカが全く同じ言葉を、同時に発した。
「え? どういうこと? まだ飲み足りないのかい?」
「そうじゃないの、お開きにして休むのは賛成よ」
「だったら、なぜ?」
「ゲスト用のべッドルームはあたしたち二人で使うわ、あなたたちはマスターベッドルームを使ってね♡」
「ビル、ゴメンなさいね、いらっしゃい、ソックス」
唖然とする男二人を尻目に、妻二人はぴったりと寄り添ってゲスト用ベッドルームに向かい、雌犬一頭も後を追う。
「モニカの体って本当にグラマラス、どこもかしこも柔らかくって……」
「ヴィクトリアこそ、腕にすっぽり収まる華奢なボディが可愛らしいわ……」
「あなたに抱きしめられるとトロトロになっちゃう」
「あなたこそ、あたしの体に火をつけるんだから……」
バタン!
「……おい、デビッド、どうやら僕たちは認識が甘かったようだな」
「……ああ……女性二人なら問題ないと思ってたけど、そっち方面に発展するとは……」
二人は思わず顔を見合わせる。
「僕はあいにくそっちの趣味は全然ないんだ」
「僕も同じさ」
「今夜はジーンズを穿いたまま寝ることにするよ」
「僕もだ……」
二人は同時に大きく肩をそびやかせて大きなため息をついた……。
~Goodnight zzzzz~
作品名:Two Pair + One 作家名:ST